AppleがiOS 18とともに導入した新しい「パスワード」アプリは、Keychainに代わるスタンドアロンの資格情報管理ツールとして登場した。認証コードやWi-Fi情報の一括管理、家族共有機能など利便性は高まったが、ブラウザやAndroidへの非対応、パスワード履歴や二要素認証といった高度機能の不在により、1Passwordなどの有料サービスに匹敵する存在とは言いがたい。

加えて、HTTPバグによる約3か月間のフィッシング攻撃リスクという重大なセキュリティ問題が、Appleの掲げるプライバシー最優先の理念に疑問を投げかける結果となった。修正は行われたものの、Apple製品に全面依存しないユーザーには選択肢として慎重な見極めが求められる。

本アプリは、設定不要で使いやすいという点では初心者層にとって魅力的だが、複数デバイスやプラットフォームをまたぐ利用者には課題を残している。

Appleの「パスワード」アプリに潜在した脆弱性とその影響

AppleがiOS 18とともに投入した「パスワード」アプリは、利便性を追求する設計が評価される一方で、セキュリティの観点から重大な問題が浮上した。9to5Macが明かしたところによれば、同アプリは2024年12月のiOS 18初期リリースから18.2への更新まで、およそ3か月間にわたりHTTPバグを抱えていた。

この脆弱性により、ユーザーがフィッシング攻撃に晒されるリスクが存在していたことは、Appleのプライバシー重視の姿勢に矛盾を突きつける結果となった。このバグは、HTTPSでの接続が前提とされるセキュアな資格情報管理において、例外的かつ致命的な盲点を生じさせた。

しかも、Appleはこの問題を公にアナウンスすることなく、静かに修正を施していた点も注目に値する。セキュリティが信頼の根幹であるAppleにおいて、このような対応は一部のユーザーに不安を与えたことは否めない。

本来、ゼロトラストやEDRといった最新技術を取り入れるAppleの開発体制において、こうした初歩的なミスが長期間見逃された事実は、開発サイクルや検証プロセスへの再検討を促す兆しとも取れる。今後は機能追加だけでなく、堅牢性の徹底が問われることになるだろう。

「パスワード」アプリが示すAppleの狙いと限界

iOS 18、iPadOS 18、macOS Sequoiaに同時展開されたAppleの「パスワード」アプリは、Keychain依存からの脱却を図る新たなユーザーインターフェースを提供した。カテゴリ別に情報を整理し、パスキーやWi-Fi情報の一括管理、さらにはファミリー共有機能の導入などにより、操作性と視認性を高めている点は特筆に値する。

Appleデバイス間での即時同期も実現し、エコシステム内での一貫性を担保する仕組みが整った。一方で、このアプリはiCloud for Windowsを除いてクロスプラットフォームへの対応がなく、Androidや非Apple製ブラウザでは利用できないという制限がある。

加えて、有料の1Passwordが提供するようなセキュアノート、ドキュメント保存、カスタムフィールド、パスワード履歴などの上位機能は実装されていない。つまり、複数のデバイスやOSを日常的に併用するユーザーにとっては、代替手段として成立しにくい。

Appleが狙っているのは、高度な機能よりも“初めてのパスワード管理”を求めるライトユーザー層であり、導入障壁を極力下げた設計にその意図が表れている。今後、企業利用やセキュリティ要件の高い現場に踏み込むには、柔軟性と外部連携への対応強化が避けられない。現時点では「Appleユーザーによる、Appleユーザーのための管理ツール」にとどまっている。

Source:9to5Mac