Microsoftは新たに「DirectX Raytracing 1.2(DXR 1.2)」を発表し、PCゲームにおけるレイトレーシング性能の飛躍的な向上を目指す。Opacity MicromapsとShader Execution Reorderingという2つの新技術により、最大で2.3倍、特定条件では2倍のパフォーマンス向上が見込まれている。

Nvidiaは既にGeForce RTXシリーズでのドライバー対応を明言しており、AMDやIntelなど他社との協力も進行中とされる。また、Microsoftはニューラル系技術を活用した画質強化にも取り組んでおり、リアルタイム・パストレーシングの品質向上にも注力している。

DXR 1.2は2024年4月にプレビュー版SDKとして提供予定であり、今後のゲーム開発環境に大きな変化をもたらす可能性がある。

レイトレーシング性能を支える2つの新技術が描く進化の方向性

Microsoftが発表したDirectX Raytracing 1.2では、「Opacity Micromaps」と「Shader Execution Reordering」という2つの革新的な技術が導入された。Opacity Micromapsは、透明なオブジェクトを含むシーンでの描画効率を高め、特にパストレーシングベースのゲームで最大2.3倍の性能向上が期待されている。一方、Shader Execution Reorderingは、GPU内でのシェーダー実行順序を最適化し、条件次第で最大2倍の処理効率を実現する可能性がある。

これらの技術は単に計算処理を早くするだけでなく、レイトレーシングを取り巻く最大の課題である“美しさとパフォーマンスの両立”に挑むものだ。とりわけ、パストレーシングのような高負荷技法が主流になりつつある中で、こうした最適化は今後のゲーム体験を左右する要素となる。負荷軽減により、より多くの環境でレイトレーシングが実用化され、従来は性能的に妥協を強いられていたビジュアル表現にも新たな可能性が広がる。

GPUの演算リソースが限られる中で、計算そのものを減らさずに“順番”と“扱い方”を工夫するというアプローチは、ゲーム以外のグラフィック処理にも応用できる基盤技術として注目すべき動きといえる。

対応GPUの広がりと今後の展開に向けた期待と課題

今回のDirectX Raytracing 1.2に対して、NvidiaはすでにGeForce RTX全モデルでのドライバー対応を明言している。これにより、現行のNvidiaユーザーは比較的早期に恩恵を受けられる体制が整う。一方、MicrosoftはAMD、Intel、Qualcommとも協力中と述べているが、具体的なスケジュールや対象GPUの詳細は示されていない。

DXR 1.2の機能が広く普及するためには、各GPUベンダーによる迅速かつ積極的な対応が不可欠である。特に、エントリー〜ミドルレンジGPUを利用するユーザー層にとっては、対応の有無が機能体験に直結するだけに、今後の発表動向には注目が集まる。また、プレビュー版SDKが2024年4月に提供されるということは、実際のゲームタイトルでの本格実装はさらに後になる可能性が高い。

ただし、Microsoftがニューラルブロックテクスチャ圧縮やニューラルスーパーサンプリングといった新手法も並行して取り入れようとしている点は見逃せない。リアルタイム・パストレーシングの描画品質そのものを引き上げるこれらの技術が、性能向上と相まってどのように統合されていくかが、今後のリアルタイムグラフィックスの進化を左右する鍵となるだろう。

Source:PCWorld