Appleが導入したM3チップは、業界初となるパーソナルコンピューター向け3nmプロセスを採用し、性能と電力効率の両面で進化を遂げた。しかし、TSMCのN3Bプロセスにおける歩留まりの低さや、M3 Pro/Maxに見られる帯域やコア数の後退、さらには発熱問題などが影を落とし、Apple史上最も寿命の短いマイクロチップとして記憶される可能性がある。
AppleはM3投入からわずか500日ほどでM4への移行を決断し、より製造効率に優れたN3Eプロセスへとシフト。iPad Proなど一部製品ではM3を飛ばしM4を直接搭載するなど、戦略の転換も見られた。技術的成果と製造上の試練が交錯したM3世代は、Appleシリコンの未来を左右する一手として注目された。
M3に課せられた3nm技術の重圧と、製造上の現実

AppleがM3チップで導入したTSMCの3nmプロセス「N3B」は、性能と効率の飛躍を約束する先端技術であった。しかしながら、この技術的進歩には代償が伴った。製造時の歩留まりは55%に留まり、1枚のウェハーから約半分が不良品となる厳しい現実に直面した。
Appleはこの課題を見越してか、TSMCとの間で完成品のみの支払いという異例の契約形態を勝ち取ったが、それでも量産の難しさは覆せなかった。M3シリーズにおいてもスペックの一貫性が揺らいだ。M3 Proではメモリ帯域が200GB/sから150GB/sへと減少し、コア数も8から6へと縮小された。
M3 Maxも帯域幅が従来の400GB/sから300GB/sに抑えられた。これは性能の後退ではなく、製造効率や歩留まりの改善を優先した設計変更の結果と見られている。高性能を掲げつつも、実態としてはチップ設計と量産体制の両立に苦慮した構図が浮かび上がる。
AppleがM4への移行を急いだ背景には、M3が製造面で過渡的な製品であった事実がある。技術の先端を追い求めた結果、実用性や一貫性において犠牲となった側面は否定できない。M3は単なる失敗ではなく、Appleが次世代シリコンに向けた重要な学習を積んだ世代であると言える。
スペック表では語れないM3の限界とAppleの戦略的転換
M3シリーズはベースモデルでシングルコア性能がM2比で約15%向上するなど、確実に前進した部分も存在する。しかし、M3 Proのマルチコア性能がM2 Proと同等かそれ以下のケースもあり、製品間の性能差が明確に現れなかった。
さらに、Mac StudioへのM3搭載が2025年3月5日まで見送られ、Mac Proには依然としてM2 Ultraが採用されるなど、ハイエンド領域ではM3の影が薄い。M3 MaxではGPUが40コア構成となり、クリエイティブ用途においては顕著な性能向上を実現したが、M3 Ultraは登場せず、最上位セグメントをカバーしきれなかった。
また、iPhone 15 Proに搭載されたA17 Proと同様、M3にも発熱の懸念が浮上しており、Electropagesの報告では30分の使用で48℃を超える事例もあるとされた。この点においても、N3Bプロセスの安定性や放熱設計に課題が残る。M3はAppleのシリコン開発における「通過点」として設計され、M4への迅速な移行により、Appleはリスクと影響を最小限に抑えた形となった。
通常18ヶ月で世代交代を行うサイクルに対し、M3は約500日で次世代に交代し、iPad ProなどではM3世代を飛ばしてM4が搭載された。Appleの意思決定の速さと柔軟性は評価に値する一方で、M3はその短命ゆえに「完全な完成品」とは言い難い状況で市場を後にすることとなった。
Source:LaptopMag