量子コンピュータ開発を手がけるD-WaveのCEOアラン・バラッツは、量子アニーリング技術を用いた商用量子ブロックチェーンが1〜2年以内に登場する可能性があると語った。これはNvidiaのジェンスン・フアンが示した10年以上先という見立てと大きく食い違う。

同社はすでに4台の量子マシンによるプロトタイプでPoW方式のブロックチェーンにおけるエネルギーコスト削減を実証済みで、磁性材料の特性解析でも成果を挙げている。現在5,000キュービットのシステムはNvidiaのGPUを必要とせず、校正やエラー訂正も独自で行っている点が特徴だ。

D-Waveが描く量子ブロックチェーンの近未来とその根拠

D-WaveのCEOアラン・バラッツは、量子アニーリングを用いた量子ブロックチェーンが1〜2年以内に商用化される可能性があると語っている。同社はすでに4台の量子コンピュータでプロトタイプを構築し、PoW型ブロックチェーンのハッシュ計算におけるエネルギー消費の大幅な削減を実現していると明かしており、これは現在のブロックチェーンシステムが抱える高コスト問題への一つの解となり得る。

加えて、5,000キュービットのシステムはNvidiaのような外部GPU支援を受けずとも校正とエラー訂正を自律的にこなしており、シンプルな運用体制と高い独立性も特徴である。この技術的自立性こそが、D-Waveが短期的な商用展開に自信を持つ理由の一つとされる。さらに、Science誌に掲載された研究では、古典的な方法では困難だった磁性材料の特性解析にも成功しており、理論だけでなく応用面での証明も進んでいる。

ただし、D-Waveは量子アニーリングとは異なるゲートモデル型量子コンピュータの開発も進行中であり、将来的にはNvidiaのツールとの連携が視野に入る可能性も示唆されている。バラッツが主張する「すでに価値を提供している」という姿勢は、今まさに量子技術が抽象概念から現実のソリューションへと変わりつつあることを示している。

Nvidiaとの見解の違いが映し出す量子業界の時間軸の分裂

NvidiaのCEOジェンスン・フアンは、量子コンピューティングの実用化は10年以上先と見積もっているが、D-Waveのバラッツはこの時間軸に真っ向から異を唱えている。両者の対立は、量子コンピュータの種類や設計思想の違いに起因しており、D-Waveのアニーリング型と、Nvidiaが注力するゲートモデル型では用途や成熟度の評価基準が根本的に異なる。

D-Waveは自社技術がすでに顧客事例として成果を出していると強調しており、NTTドコモによる最適化活用のほか、ブロックチェーンのエネルギー効率化などの具体的な成果を挙げている。一方で、Nvidiaのアプローチは将来的な汎用性を重視しており、より長期的な視野に立っていると見られる。

バラッツはGTCでのフアンとのディスカッションにおいて、意見の相違を認めながらも、自社技術の進展を紹介できたことには一定の意義を感じていたという。ただし、このイベントが業界全体やD-Wave自身にもたらしたインパクトは限定的だったとも述べており、今後の量子技術の評価は実用成果の積み上げにかかっている。技術の進歩だけでなく、それがいつ、どこで、どのように生活やシステムに浸透するのかという時間感覚が、今後の注目点となる。

Source:Wall Street Pit