テスラ株の急落により、イーロン・マスクの資産構成に劇的な変化が生じた。12月以降の株価下落で時価総額は8,000億ドル近く消失し、マスクの純資産も約1,000億ドル減少。これにより、彼が保有するスペースXの評価額が1,470億ドルとテスラを上回り、初めて最大資産となった。

第4四半期の出荷不振や政界との関係を巡る不信感が投資家心理を冷やし、複数の幹部が巨額の株式を売却する中、空売り勢は160億ドル超の利益を確保。政治的立場や暴力的抗議行動も絡み、企業イメージへの悪影響も顕著である。

スペースXはスターリンク事業を中心に成長を続け、2024年の収益は前年比51%増の131億ドルに。マスクはテスラの将来に依然として自信を示すものの、両社の明暗が鮮明となってきた。

テスラ株下落の連鎖反応と幹部陣の動き

テスラの株価は2023年12月以降、50%以上の急落を記録し、時価総額は8,000億ドル近く減少した。この値動きにより、イーロン・マスクの純資産も1,000億ドル近く失われたが、依然として3,290億ドルで世界首位の富豪としての地位を維持している。こうした急落の背景には、2024年第4四半期の車両出荷数の鈍化や、マスクの政治的関与が投資家の信認を揺るがせた点がある。特に、ドナルド・トランプ政権下で政府効率省長官への就任という報道は、彼のテスラ経営への専念を疑問視させる一因となった。

この不透明感に呼応するように、テスラ幹部の大規模な株式売却も相次いだ。取締役のジェームズ・マードックが3月10日に1,300万ドル分を放出し、会長のロビン・デンホルムは5週間で7,500万ドル相当を手放している。加えて、マスクの弟キンバル・マスクも7万5,000株、2,700万ドル相当の売却を実施し、CFOヴァイバヴ・タネジャも500万ドル超を手放した。これら一連の売却は、単なる資産整理とは言い切れず、将来の成長性に対する不安を反映しているとの見方も根強い。

スペースXの台頭とテスラを取り巻く不確実性

テスラ株の低迷により、イーロン・マスクの資産に占める割合でスペースXが初めて首位に立った。保有するスペースX株42%の評価額は現在1,470億ドルに達し、テスラ株を200億ドル以上上回っている。スペースXはスターリンク事業を中核としており、業界アナリストのPayload Spaceによれば、2024年の収益は前年比51%増の131億ドルに達した。この成長が、マスクの資産ポートフォリオの重心を大きく移動させたことは明らかである。

一方、テスラは企業としての信頼を取り戻すための構造的課題に直面している。政治的立場を明確にするマスクの姿勢に反発し、米国内のテスラ販売店では抗議活動が頻発。中には火炎瓶や銃撃といった暴力的手段も報告され、企業ブランドに深刻な傷を残している。Foxニュースのインタビューで、マスクは民主党支持層からの暴力に強い衝撃を受けたと述べており、米国内の政治対立が企業経営にまで波及している様子がうかがえる。このような社会的緊張がテスラの今後に及ぼす影響は予断を許さない。

株式市場の反応と空売り勢の台頭

テスラの株価下落は市場全体にも影響を与え、ウォール街では空売りによる収益が拡大している。Financial Timesによると、過去3ヶ月でテスラを空売りしていた投資家は160億ドル以上の利益を上げており、これは同社の下落局面における市場の悲観的見方を象徴している。さらに、一部アナリストはテスラの世界出荷台数予測を2022年の最低水準まで引き下げており、供給体制や需要の両面に対する懸念が強まっている。

このような空売りの加速は、単なる株価調整以上の構造的な懸念が背景にあることを示唆している。自動車業界では電動化が進展する一方で、競合他社の台頭も著しく、テスラが築いてきた市場優位性はかつてほど盤石ではない。マスクはX(旧Twitter)上でテスラの長期的な健全性に言及しているが、短期的には市場心理の立て直しが急務である。株式市場は期待よりも結果に厳しく反応するため、今後の四半期決算がターニングポイントとなる可能性は高い。

Source: Benzinga