高性能ファンで知られるNoctuaが、ポンプを排した革新的なAIO液体CPUクーラーを開発中であることが明らかになった。日本のイベントで公開されたこの試作機は、冷媒の相変化を利用するサーモサイフォン構造を採用し、従来のポンプ式冷却とは根本的に異なる仕組みを特徴とする。
気化と凝縮による自然循環で冷却液が循環し、動作音の大幅な低減と機械的故障リスクの抑制を可能にする設計が注目を集めた。ただし、ラジエーターの設置位置に制限があり、汎用性には課題も残る。Noctuaは発売の可否も含め開発段階にあるとしつつ、2026年の市場投入の可能性が報じられている。
ポンプを排した構造がもたらす静音性と信頼性の革新

Noctuaが日本で公開したサーモサイフォン式AIOクーラーは、冷却液の循環に物理的なポンプを用いず、相変化を活用するという画期的な仕組みを採用している。液体冷媒がCPUの熱で気化し、上方のラジエーターで冷却されて液体へと戻る自然対流のプロセスが、機械的な動作を必要としない冷却サイクルを構成している。
この構造により、冷却システムにありがちなモーター音が発生せず、唯一の可動部品はラジエーターに装着されたファンに限られる。
このような設計は、従来のAIOクーラーにおいて発生しやすいポンプ故障や動作ノイズの問題を回避できる可能性がある。加えて、可動部品が少ない構成は、長期運用における製品寿命や信頼性の向上にも資する。Noctuaが冷媒として採用する物質の詳細は明らかにされていないが、気化熱の吸収と凝縮時の放熱を活用することで、効率的な熱移動を実現している点が注目される。
もっとも、ラジエーターをCPU上部に設置しなければならない構造上の制限があるため、ケースの形状やユーザー環境によっては導入に制約が生じる余地も残されている。
AIO市場における差別化戦略と2026年発売の可能性
Noctuaは、長年空冷クーラー市場において定評ある製品を供給してきたが、今回の発表はAIO市場への本格的な布石としても意味を持つ。2024年のComputexで初披露されたプロトタイプは、日本の技術系メディア「Hermitage Akihabara」による取材を通じて、その後の進捗や構造詳細が徐々に明らかになった。
Noctua自身は、この製品が「いつ発売されるか」ではなく「発売するかどうか」の段階にあるとし、慎重な姿勢を崩していない。しかし、開発が順調に進んだ場合、2026年中の市販化を視野に入れている可能性も報じられている。
AIOクーラー市場は既存製品の設計が均質化している側面が強く、差別化が求められている領域でもある。Noctuaの新型は、独自構造による物理的・機能的な違いを前面に打ち出すことで、プレミアムユーザー層へのアピールを強化できる構成となっているといえる。
もっとも、熱制御の挙動や設置条件など、空冷や従来型水冷とは異なる特性を持つため、市場導入にあたってはユーザー教育や適切なケース設計の提案が不可欠となるだろう。冷却性能そのものが空冷を超える保証は現時点でないものの、物理原理に基づく安定性が一定の支持を得る可能性は否定できない。
Source:PCGamesN