2025年に入りテスラの株価は約32%下落し、長年の強気派であったWedbushのアナリスト、ダン・アイブス氏すら「ブランドのトルネード危機」と評するほど深刻な局面に直面している。背景には、ドイツでの59%減や中国での登録台数51%超減少といった販売不振があり、JPMorganは納車見通しを20%下方修正した。

加えて、イーロン・マスク氏によるトランプ政権との関係性が消費者の反発を招き、テスラ車両や充電施設への破壊行動にもつながっている。サイバートラックのリコール問題も加わり、ブランドイメージは揺らいでいる。

一方、中国のBYDは2024年に売上高1,000億ドル超、EV納車176万台を記録し、テスラに迫る存在となった。時価総額では依然としてテスラが大きいが、FCF倍率や利益率の比較から過熱感を指摘する声も多く、今後の展開に市場の注目が集まっている。

テスラに迫るBYDの台頭と市場シェアの逆転兆候

テスラの販売不振が顕著となる中、中国のBYDは存在感を急速に高めている。2024年のEV納車台数は176万台と、テスラの179万台に肉薄したうえ、ハイブリッド車を含めると年間納車は425万台に達し、フォードに匹敵する規模にまで拡大している。売上高も前年比18%増の941.8億ドルとなり、Bloombergは2024年通期で1,000億ドルの突破を予測している。さらに、5分の充電で約400kmの走行が可能な急速充電技術を発表し、同社の株価は香港市場で約60%上昇した。

一方、テスラはドイツで販売が59%減、中国でも登録台数が前年比51%超の落ち込みとなり、JPMorganなどが納車予測を20%引き下げるなど先行きに陰りが出ている。粗利益率ではBYDが20.6%でテスラの17.9%を上回る一方、営業利益率ではテスラが7.8%とBYDの5.9%を凌ぐ。フリーキャッシュフローでもBYDの51.7億ドルがテスラの35.8億ドルを上回り、成長性と資金効率の両面で競争力を増している。

しかし、BYDは欧米市場での関税障壁やインフラ整備の遅れといった課題を抱えており、グローバル展開においては依然として制限が多い。とはいえ、足元の指標はテスラの市場支配に綻びが見え始めていることを示唆している。

イーロン・マスクの政治関与が引き起こすブランド毀損リスク

テスラの株価急落の背後には、イーロン・マスクCEOの言動と政治的関与が与える影響も無視できない。ドナルド・トランプ前大統領との関係が公に示される中、マスク氏はテスラ車をホワイトハウスで紹介し、トランプ氏自身が購入するという事例も報じられた。しかし、この動きは中立を重視する多くの消費者に反発を生んでおり、一部ではテスラ車や充電インフラへの破壊行為も発生している。

ダン・アイブス氏はマスク氏が他事業に注力し過ぎていることに懸念を示し、テスラへの集中が欠如すれば「ブランドに恒久的な損傷をもたらしかねない」と警鐘を鳴らした。実際、サイバートラックでは納車済みの4万6,100台のほぼ全てがパネル不具合でリコール対象となるなど、品質管理の問題も浮上している。

こうした事象は、単なる販売不振ではなく、企業のアイデンティティや消費者との信頼関係そのものを揺るがす要素である。市場からの信認を維持するには、製品性能のみならず、企業姿勢や経営陣の振る舞いが一層問われる局面にある。ブランド資産の価値は数値化できずとも、株価に対する影響は如実に現れつつある。

Source:Barchart.com