トランプ政権時代の高官らが利用していた暗号化メッセージアプリ「Signal」による秘密チャットが物議を醸している。元国防長官ピート・ヘグセスが、イエメンでの攻撃計画に関する機密情報を事前に送信していたと報じられ、民主党は上院・下院で連続公聴会を予定。

問題のチャットにはCIA長官ラトクリフ、国家情報長官タルシ・ギャバード、副大統領ヴァンスら18名が含まれ、The Atlanticの報道が波紋を広げている。民主党は国家機密漏洩の可能性やスパイ法違反の有無に注目し、徹底追及の構えを見せている。

共和党内部でもヘグセスの軽率な言動に批判が集まる一方、下院議長ジョンソンは「過ち」として処罰に否定的。政権内部の混乱と分裂が、再び安全保障リスクを浮き彫りにしている。

Signalチャットに18名の政府高官が参加 機密情報共有の実態とは

The Atlanticが報じたところによれば、暗号化アプリ「Signal」を通じた非公式なチャットグループには、国防長官ピート・ヘグセスをはじめ、国家安全保障担当補佐官マイク・ウォルツ、副大統領ヴァンス、国務長官マルコ・ルビオ、国家情報長官タルシ・ギャバード、CIA長官ジョン・ラトクリフら計18名が参加していた。問題視されているのは、2020年当時、ヘグセスがイエメンでの軍事攻撃に関する標的および実行時刻の詳細を、攻撃の2時間前に同グループ内で送信していた点である。

この通信内容が仮に機密指定されていた場合、スパイ防止法違反の疑いが生じる可能性がある。加えて、Signalは通信の秘匿性が極めて高い一方で、公式記録に残らないため、国家安全保障に関わる情報交換の手段として適切だったかは問われるべきだろう。上院情報委員会と下院情報委員会は、この点を中心に徹底した事実確認を行う構えであり、証言を求められている関係者の発言が今後の焦点となる。

公的機関の通信手段として暗号化アプリが安易に用いられた場合、監査の不透明性と行政の信頼性が大きく損なわれるリスクがある。特に軍事作戦に関連する情報が非公式に共有されていたとなれば、その組織的体制の緩さと責任の所在が厳しく問われる事態に発展しかねない。

与野党の攻防激化 「過ち」か「違法行為」かを巡る温度差

上院軍事委員会のロジャー・ウィッカー委員長(共和)は、今回の件に関連して「初歩的な誤り」と評し、関係者に対する詳細なブリーフィングを要求する姿勢を示した。一方、民主党のチャック・シューマー院内総務は「近年で最も衝撃的な軍事機密の漏洩」と断じ、党内では関係者の責任追及を強める方針が広がっている。下院でもジム・ハイムズ(民主)が同様の姿勢を示し、両院での連日公聴会は政治的攻防の場となる様相を呈している。

一方で、共和党側では議会下院議長マイク・ジョンソンがウォルツおよびヘグセスの処罰に否定的な見解を表明し、「再発防止で十分」と述べた。この発言は一部保守層の結束を意図したものであり、実質的な追及回避とも受け取られている。加えて、ヘグセス本人は「戦争計画など送っていない」と強弁し、報道元であるThe Atlanticを「信用できない」と公然と批判した。

本件は単なる技術的過失として処理されるには重すぎる性質を持つ。通信の手段が問題視されるのではなく、その内容と意図、そして共有された相手の構成こそが問われるべきである。政治的思惑が先行する中、国家の安全保障と民主的統制の原則が、いかにして守られるのかが試されている。

Source:axios