トランプ政権は先週、LGBTQの健康に関する研究を中心とした少なくとも68件の連邦助成金を打ち切った。対象となった46の研究機関には総額4,000万ドルが交付されていたが、うち136万ドル超の将来支援分が取り消された。中止された研究には、HIV予防、若年層の自殺、骨の健康、がん治療など幅広いテーマが含まれていた。
保健福祉省は「金字塔となる証拠に基づく科学」への回帰を強調するが、現場の研究者からは「科学の世代そのものの損失」との声が上がる。ヴァンダービルト大学では高齢LGBTQ層1,200人以上を追跡したプロジェクトが中止となり、医師教育や予防医療の改善にも影響が出る見通し。
助成金終了の理由として「科学的でない」「国民の健康向上に資さない」と記されたが、研究者らは性的マイノリティの健康問題を軽視する姿勢に強い懸念を示している。
LGBTQ関連研究の一斉中止で失われた現場の知見と影響

今回打ち切られた助成金の大半は、HIV予防、若年層の自殺、がん対策、高齢LGBTQ層の健康など、性的マイノリティの生活と直結する領域を対象としていた。たとえばヴァンダービルト大学の研究では、50歳以上のLGBTQ当事者1,200人以上を長期追跡しており、医師教育やがん検診の普及にも寄与してきた。すでに20本を超える論文が成果として発表されていたが、今回の打ち切りにより4月に予定されていた更新申請が不可能となった。
さらに、ミネソタ大学ではゲイおよびバイセクシュアル男性のがん研究が完全に停止。研究者サイモン・ロッサー氏は「LGBTQがん研究は米国内においてもはや存在しない」と危機感を示す。これらのプロジェクトには若手研究者も多く従事しており、打ち切りは一時的な損失ではなく、将来的な人材育成の基盤そのものを揺るがす事態とされている。
研究の蓄積を絶つことで、LGBTQ当事者に特有の健康リスクや治療ニーズが見過ごされる恐れがある。少数者の健康データは、集団全体の医療向上にもつながるという観点からも、科学的な損失は決して小さくない。
「非科学的」との理由に滲む政治的意図と研究の萎縮
保健福祉省は、助成金の終了理由として「非科学的である」「多くのアメリカ人の健康改善に資さない」と説明した。しかしその表現は、研究者たちにとって科学的批判というよりも個人攻撃に近いものとして受け取られた。ヴァンダービルト大学のマッケイ氏は、「プロジェクトがアメリカ人に利益をもたらさないとされたが、クィアやトランスジェンダーもアメリカ人である」と述べ、政治的バイアスを強くにじませる判断であったと批判している。
過去にもトランプ政権は、LGBTQに関する用語や表現を政府機関から排除する動きを見せており、今回の決定もそうした流れと連続性を持つ。表向きには科学の質を重視する姿勢を示しつつも、実際には特定の価値観に基づいて研究領域が切り捨てられている構図が見える。特に社会的に脆弱な立場にある人々の研究が軽視されることは、研究現場における萎縮効果を生み出しかねない。
本来、科学研究は特定の思想に左右されるべきではなく、多様な視点から知見を蓄積することで社会全体の厚みを増すものだ。今回の決定により、その前提が大きく揺らいでいる。
Source:apnews