ウクライナ戦争の終結をめぐり、米超党派の上院議員がトランプ政権に対し、凍結中のロシア資産約3000億ドルを直接ウクライナ支援に充てるよう強く求めている。書簡は国務長官マルコ・ルビオ宛に送付され、EUやG7諸国にも同様の資産移転を促す戦略の構築を迫った。
署名者には共和党のグラハム氏や民主党のカイン氏らが含まれ、政権の対露姿勢に異例の公的圧力となった。大半の資産は欧州に所在し、法的リスクを懸念する各国は利子分の活用にとどまるが、米議員団は原資自体の利用こそ和平への重圧になると主張している。
米議員らがロシア凍結資産の本格活用を要請 利子運用にとどまらぬ新たな圧力策へ

3月22日付で提出された書簡において、共和党のリンジー・グラハム議員や民主党のティム・ケイン議員らが連名で、トランプ政権に対しロシア凍結資産の原資活用を正式に求めた。書簡は国務長官マルコ・ルビオ宛であり、現在利子収入のみを支援に充てている状況を転換し、凍結中の約3000億ドルに及ぶロシア中銀資産をウクライナ復興や防衛装備の調達に用いるよう要求している。
この資産は主にEU諸国の証券保管機関で管理されており、米国内に存在するのは約70億ドルにすぎないとされる。現在は欧米ともに資産そのものの使用には慎重姿勢を崩しておらず、代替案として利子を担保に融資を行う方式が進められている。こうした中、超党派による明確な要求は、米政権の対露政策に対する圧力の高まりを示す象徴的な動きといえる。
また、トランプ政権下でウクライナ支援に対する関心が後退しているとの見方が広がる中、この書簡は共和党内部に残る親ウクライナ派の存在を明確にした意義も大きい。従来の姿勢を変えないままでは、戦後の秩序形成において米国の影響力が後退しかねないとの懸念も背景にあるとみられる。
国際法と金融慣行の狭間で揺れる資産移転 欧州と米国の温度差
ウクライナ侵攻を機に凍結されたロシアの中央銀行資産は、国際金融システムにおける異例の措置として各国に大きな波紋を呼んだ。欧州各国ではこの資産を復興資金に充てる構想が根強くあるものの、法的課題の多さと国際的な前例を作ることへの警戒感から、いまだ方針の統一には至っていない。
欧州委員会は、利子収入の活用については容認の方向で進めているが、原資の没収については、国際法違反とされる可能性を懸念し慎重な姿勢を崩していない。実際、国家と戦争状態にないまま中央銀行資産を正式に押収するという行為は、これまで米国でも前例がなく、2024年に成立した「Rebuilding Economic Prosperity and Opportunity for Ukrainians Act」も資産の移転を可能とするにとどまっている。
ロシア側はこれに対し、資産の使用は国家の財産権を侵害するものであり「強奪」だと非難している。一方で、一部報道では、ロシアが欧州に凍結された資産の一部を自国が支配するウクライナ東部地域の再建に使うことを条件に譲歩する可能性も示唆されている。資産の扱いをめぐる今後の交渉は、単なる戦費支援にとどまらず、戦後秩序と金融の中立性をどう再定義するかという、より本質的な論点に直面している。
Source:reuters