AMDはこれまで距離を置いていたARMアーキテクチャ市場への参入を本格化させ、次世代APU「Sound Wave」の開発に着手した。この新型APUは、Zen 6ベースからARM対応へと設計方針を転換し、2つのPコアと4つのEコアを持つ6コア構成で、省電力とAI処理性能を重視している。

搭載されるRDNA 3.5 GPUは、機械学習用途に最適化されており、NPUやMALLキャッシュを含む構成は、ローカルAI処理と長時間駆動の両立を狙うものとみられる。価格帯も$1,000未満の中位モデルが想定され、ARM化が進むノートPC市場において、Qualcommや年内発表予定のNVIDIA製品との激しい競争が予想される。

これにより、長らくx86アーキテクチャが主流だったWindowsノートPC領域において、ARM勢による新たな市場秩序の構築が現実味を帯びてきた。

Sound Waveが示すAMDのARM戦略転換と技術的特徴

AMDはこれまでARMアーキテクチャの導入に慎重な姿勢を取っていたが、ポッドキャスト「Moore’s Law is Dead」によれば、現在は明確に方向転換し、新たなノートパソコン向けAPU「Sound Wave」の開発に着手している。

このプロセッサーは、従来のZen 6アーキテクチャを基盤とする予定だったが、ARM対応へと設計が見直された点が特筆に値する。特に競合するQualcommの製品を意識した仕様となっており、バッテリー駆動時間を最優先した構成が採られている。

技術的には、2つの高性能コア(Pコア)と4つの高効率コア(Eコア)による6コア構成を取り、グラフィックスには機械学習処理に最適化されたRDNA 3.5 GPUを内蔵。また、ニューラルプロセッシングユニット(NPU)やMALLキャッシュを組み込み、AIタスクのローカル処理と電力効率の両立を図る。

さらに、128ビットのLPDDR5X-9600メモリと16GB以上のRAMを備える計画であり、軽量なAI処理を想定した用途が中心となる見込みである。

性能の絶対値ではなく、特定領域に特化した構成からは、AMDがノートPC市場におけるARMアーキテクチャの現実的な普及段階を冷静に見極めた上での判断であることがうかがえる。

ノートPC市場の再編とx86勢の対応

ARMアーキテクチャを採用するノートPCが台頭する中、AMDとNVIDIAは明確な対応策を打ち出す一方で、Intelは依然として静観する姿勢を崩していない。

Qualcommは2024年末までに800ドル以下の価格帯で新型ARMプロセッサーを投入予定であり、従来のx86搭載ノートPCに対する競争圧力は今後一層強まるとみられる。この流れの背景には、AppleのMacBookが示した「高性能と省電力の両立」というARMの実績がある。

これまでWindowsユーザーにとってARM搭載機はMac OSへの乗り換えを伴う選択肢しかなかったが、AMDやNVIDIAがARMアーキテクチャに本格参入すれば、OS変更の壁を越えたARM導入が可能となる。とりわけAMDの「Sound Wave」は中価格帯ノートPC市場を標的としており、従来$1,000以下の価格帯では競争優位を築くことが難しかったARM勢にとって、新たな道を開く可能性がある。

ただし、拡張性を重視するデスクトップ市場においては、依然としてx86が優位を保っており、ARMの構造的制約が普及の壁となる状況は変わっていない。この分野に関しては、IntelやAMDが静観している現状にも一定の合理性があると言えるだろう。

Source:GEARRICE