AI分野での覇権を握ってきたNVIDIAに対し、量子コンピューティング業界の重鎮であるIonQ前CEOのピーター・チャップマンが「量子でジェンスンの株を空売りする理由はない」と発言した。2025年のNVIDIA Quantum DayでCEOのジェンスン・フアンと共演したチャップマンは、AIとの共存を前提に量子技術がNVIDIAの成長に資する可能性を示唆した。

昨年の発言で量子の将来性を否定したフアンは一転、自らの見解を修正。市場ではNVIDIAの株価変動が続く中、量子との相乗効果を期待する声が高まっている。AIと量子が対立するのではなく、互いを補完し新たな市場を切り拓くパートナーであるという見解が、投資家の戦略にも影響を及ぼしつつある。

量子技術をめぐるNVIDIAの戦略転換と業界内の波紋

2025年のNVIDIA Quantum Dayにおいて、CEOジェンスン・フアンは量子コンピューティングに関する過去の発言を訂正し、同分野の可能性を再評価した。彼はわずか数カ月前、量子技術の実用化には15〜20年を要すると述べ、業界全体に冷や水を浴びせたばかりであった。これにより量子株は一時急落したが、今回の発言修正は市場と業界にとって象徴的な転換点と映る。

IonQ前CEOのピーター・チャップマンはこの場で「量子でジェンスンの株を空売りする理由はない」と語り、量子とAIは共存できるとの見解を示した。彼によれば、量子はAIの処理領域を補完する存在であり、競合ではなく共闘が現実的な道筋だという。これはD-Wave SystemsのCEOアラン・バラッツら他の量子系リーダーの意見とも一致しており、業界全体での方向性を反映している。

NVIDIAがBlackwell UltraやRubin GPUなどのAIチップを発表した直後に量子との共演が演出された点も注目に値する。従来AI偏重とされてきたNVIDIAが、量子を視野に入れた技術戦略へと移行しつつあることを示唆しており、AI主導の成長モデルだけでは限界を迎えつつある兆しとも読める。

NVIDIA株の変動に見る市場心理と投資家の姿勢

NVIDIA株はGTC開催直後に一時上昇を見せたものの、その後は伸び悩み、投資家心理の不安定さが露呈した。特に中国のスタートアップであるDeepSeekが、性能の劣るチップで動作するAIモデルを発表したことが下落要因となり、NVIDIAの技術優位性に疑問符が投げかけられた。これは、同社がAIの頂点に立つ存在として過剰に評価されていた現実を改めて示すものでもある。

しかしショートセラーによる空売り比率が依然として1%と低水準にとどまっている点は、NVIDIAへの根強い信頼感の現れと考えられる。膨大な研究開発資源とAI市場の規模から見れば、短期的な揺らぎはあれど、中長期での見通しに悲観論は少ない。特に量子との連携可能性が明示されたことにより、従来型のAI投資家に加え、先端計算技術に目を向ける層の支持も見込まれつつある。

量子とAIはそれぞれ異なる領域に強みを持ちつつ、並行して進化していく構図にある。この補完関係が広く認識されれば、市場はNVIDIAを単なるAI銘柄から「次世代計算の中核企業」へと再評価する契機となる可能性がある。技術の両輪が市場の評価軸を転換させるか否か、今後の展開が注目される。

Source:msn