米国副大統領JD・ヴァンスは今週金曜、文化訪問を予定していた妻ウシャ・ヴァンスに同行し、グリーンランド北西部のピトゥフィク宇宙基地を訪れる。訪問の目的は、北極圏における安全保障に関するブリーフィングを受け、駐留米軍と会談することにある。
この訪問は、かつてドナルド・トランプ前大統領がグリーンランド取得を示唆した発言を受け、現地では米国の「不遜な姿勢」として強い反発を招いている。特に新政権発足前のこのタイミングに、ワシントンから高官が招かれずに訪れることは「極めて異例」との批判も上がる。
グリーンランドは対デンマーク自治権を持ちながらも外交と防衛はコペンハーゲンが担っており、米国は第二次大戦以来、戦略拠点として継続的に軍事的関与を続けてきたが、今回の動きはその緊張感を一層高める可能性がある。
グリーンランドにおける米国の軍事的関心と歴史的背景

ピトゥフィク宇宙基地は、北極圏における米軍の主要拠点の一つであり、ミサイル警戒、空域防衛、宇宙監視といった戦略的任務を担っている。第二次世界大戦以来、米国はこのデンマーク領内の広大な島に持続的な軍事プレゼンスを維持してきた。約3,000キロ離れたデンマーク本国からの距離や、北極航路の重要性がその背景にある。
グリーンランドの外交・防衛は現在もコペンハーゲンが管轄しているが、地政学的に注目されるこの地において、米国は独自に安全保障への関与を強める構えを見せている。今回のヴァンス夫妻の訪問は、同島の安全保障上の価値を改めて強調する意味合いを持つと見られる。ただし、グリーンランド側の招待がなかった点に関し、訪問の正当性を疑問視する声も少なくない。
長年、米国はグリーンランドをNATOの防衛戦略上不可欠な要衝と見なしてきたが、近年は中国やロシアの極地進出への警戒が一層強まり、基地機能の強化が再び焦点となっている。ピトゥフィクでのブリーフィングも、その延長線上に位置づけられる。
「買収発言」の影響と現地からの強い反発
2019年にドナルド・トランプ前大統領がグリーンランドの「買収」構想に言及したことは、国際社会に衝撃を与えただけでなく、現地住民の強い不信を招いた。今回、同政権の関係者であるJD・ヴァンス副大統領および国家安全保障担当のマイク・ウォルツが相次いで訪問を予定していることに対し、グリーンランド政府や地元住民から「侮辱的」とする批判が噴出している。
ロンドン拠点のシンクタンク「Polar Research and Policy Initiative」の代表、ドウェイン・ライアン・メネゼス氏も、選挙後の政権交代期という政治的に不安定なタイミングで、高官が非公式に訪問することの異例さを指摘している。外交プロトコルを無視したこの姿勢は、米国とデンマーク、そしてグリーンランド三者の信頼関係に亀裂をもたらす可能性がある。
世論調査では、グリーンランドの住民の約80%が将来的な独立を支持している一方で、米国への編入には強く反対している傾向が見られる。こうした背景からすれば、今回の訪問が現地の自決権への無理解と映るのも無理はない。意図が安全保障強化にあったとしても、表面的な外交的配慮を欠いた行動は、むしろ地域の不信と反発を助長する結果となりかねない。
Source:BBC