量子コンピューティング企業D-Wave Quantum(QBTS)が発表した新たな量子ブロックチェーンアーキテクチャにより、同社株は3月17日に過去52週間の最高値となる11.95ドルを記録した。分散型量子コンピューティングや「量子証明(Proof of Quantum)」アルゴリズムの導入は、ビットコインのマイニング方式に代替可能な技術として注目されている。
しかしながら、この新方式は既存ネットワークとの非互換性や商業化の困難さから、当面の収益化は見込めないとされる。第4四半期には8,610万ドルの赤字を計上し、株主希薄化による資金調達も続く見通しである。
アナリストは量子技術の将来性に期待を寄せる一方で、短期的な高騰に伴う利益確定の判断も重要であり、同銘柄は高リスク資産として慎重な見極めが求められる。
D-Waveが打ち出した量子ブロックチェーンの構造とその到達点

D-Wave Quantumが公表した新技術は、クラウド上のアニーリング量子コンピュータを用いた世界初の分散型量子計算システムであり、「Proof of Quantum(量子証明)」と呼ばれるアルゴリズムに基づき、量子計算によるブロックチェーンハッシュの生成と検証を可能にした。
この仕組みにより、従来のPoW(作業証明)方式に代わる新たな合意形成メカニズムの可能性が示唆された。特に、量子ハッシュの予測困難性とエネルギー効率の高さが注目されており、暗号資産のセキュリティとマイニングコストに対するアプローチを再定義する一石となる構想である。
加えて、Advantage2プロトタイプによる量子超越性の実証も併せて発表され、D-Waveは量子計算が現行のスーパーコンピュータでは対応困難な問題において有効であると主張した。ただし、これらの成果はいずれも研究段階にとどまり、具体的な事業展開や商業パートナーとの提携といった動きは確認されていない。現時点ではあくまで技術的達成として評価すべき段階にあると見られる。
商業化と市場導入に立ちはだかる壁と投資判断への含意
D-Waveが構想する量子ブロックチェーンアーキテクチャは、既存のマイニング構造と根本的に異なるため、市場導入には極めて高い障壁が存在する。現在、ビットコインを含むPoW型暗号通貨のネットワークには数百万台の従来型コンピュータが稼働しており、これをD-Wave方式へと転換するにはネットワーク全体の再設計が不可避となる。そのため、新手法の実装には莫大なコストと利害関係者間の調整が伴い、短期的な適用は現実的でないと判断される。
さらに、D-Waveは2024年第4四半期に8,610万ドルの赤字を計上しており、資金確保のための株式発行が進行中である。発行済み株式数はわずか1年で1億株以上増加し、今後も希薄化リスクが継続する見通しが強い。このような財務状況に加え、技術の商業化が視野に入るには時間を要することを踏まえると、同社株への投資は量子コンピューティングの将来性に賭ける極めてリスクの高い選択肢となる。短期的な株価の上昇は、過度な期待先行による側面も否定できない。
Source: Barchart.com