Apple TV+の人気ドラマ「セヴェランス」に登場するコンピュータ「Lumon Terminal Pro」が、Apple公式サイトのMacセクションに突如掲載された。赤字で「新着」と強調されたこの製品は、実際には購入不可であり、Apple TV+のプロモーション施策の一環とみられる。
Appleは同サービスで過去最高の粗利益率を記録しており、「セヴェランス」は視聴者数で同社歴代首位を誇る。その文化的影響力を活かし、電子書籍配信、ポッドキャスト、LinkedIn活用など多角的な展開が進行中だ。加えて、同番組編集者によるMac活用映像も公開され、掲載ページには制作の舞台裏を紹介する短編映像へのリンクも設けられている。
Appleが仕掛けた「Lumon Terminal Pro」の演出とTV+戦略の結節点

Apple公式サイト上で突如姿を現した「Lumon Terminal Pro」は、ドラマ「セヴェランス」劇中に登場する象徴的なコンピュータである。購入可能に見える形でMac製品一覧に追加されたが、実際には販売されておらず、Apple TV+への興味を引きつける仕掛けであることが判明している。
このプロモーションは、Appleのサービス部門の売上が直近四半期で4%増の263億4000万ドルに達し、収益構造において重要性を増していることと無関係ではない。「セヴェランス」はApple TV+史上最も視聴された作品とされており、その影響力を活かす形で関連企画も展開されている。
Apple Booksでは関連電子書籍を無料配信し、主演のアダム・スコットと監督のベン・スティラーによるポッドキャストも展開。さらに、架空の企業「Lumon Industries」のLinkedInプロフィールやプレイリスト、NYでのポップアップイベントも実施されており、作品世界を現実に重ねる演出が目を引く。
このようなプロモーションの構造は、従来の広告手法とは一線を画す。製品購入ページという最も訪問頻度の高い動線に作品世界を溶け込ませ、ブランドとエンターテインメントの境界を曖昧にしている。Appleがサービス収益の拡大に本腰を入れている今、この種のクロスメディア的な展開は、視聴者獲得とブランド強化の両輪を担う施策として重要な役割を果たしているといえる。
編集者リッチマンのMac活用に見るプロフェッショナル支援ツールとしての製品訴求
Appleは「セヴェランス」の編集を担当するジェフリー・リッチマンの作業風景を紹介する短編映像を公開し、iMac、Mac mini、MacBook Proの使用シーンを通じて、映像制作におけるMacの優位性を印象づけた。映像ではロケ地、自宅、移動中といった多様な作業環境でMac製品が活用されており、Apple製品がプロフェッショナルの創作活動をいかに支えているかを可視化している。
同映像は、「Lumon Terminal Pro」の掲載ページからもリンクされており、視聴者はドラマ世界と現実の制作現場との接点を自然に意識させられる構成となっている。製品の訴求を押しつけがましくせず、創作の舞台裏という興味深い文脈で提示することで、説得力のあるストーリーテリングが成立している。
この手法は、技術的なスペック訴求から体験重視の価値提案へと移行しているAppleの方向性を体現している。スペックよりも“誰がどう使っているか”を強調することで、単なる機器ではなく、創造の相棒としてのブランドポジションを構築している。特に映像制作など高負荷な作業分野における信頼性の強調は、プロユースを重視する層に向けた明確なメッセージとして読み取れる。
Source:TechCrunch