Appleはこれまで、自社の哲学に基づき多数の製品を極秘裏に開発してきたが、その多くは市場に姿を現すことなく葬られている。中でも注目されるのが、10年超・10億ドル以上を投じて開発された自動運転車「Apple Car」や、公式発表されながらも過熱問題で頓挫したワイヤレス充電マット「AirPower」である。

さらに、実機が確認された「Magic Charger」や90年代の先進端末「Paladin」など、技術的限界や戦略的判断により撤回されたプロジェクトの実態が明らかとなった。Siriの次世代版「Siri 2.0」にも開発遅延の兆しが見られ、Appleの「完成してから発表する」という美学が、AI時代において試練に直面していることは間違いない。

Apple Carに注がれた莫大な投資と静かな幕引き

Appleが長年取り組んできた自動運転車プロジェクト「Apple Car」は、Project Titanの名のもとで10年以上、総額10億ドル以上を投入し、数千人規模の開発体制が敷かれていたとされる。M2 Ultraチップを4基搭載し、車載センサーとAppleのエコシステムを統合するという構想は、次世代モビリティの理想像として期待されたが、2024年に入り突如として開発中止が明らかになった。

Appleはこのプロジェクトに関して一貫して沈黙を貫いており、公式な発表も約束もなかったことから、大規模なユーザー反発を招くことはなかった。このプロジェクト中止の背景には、急速に加熱するAI分野へのリソース集中があると見られる。Appleにとって、自動車という未踏の分野において自社基準を満たす製品を完成させることは困難を極めたと考えられる。

一方で、競合他社が続々とAI駆動の車載技術を実用化する中、Appleの静かな撤退は技術的優位性への挑戦の難しさを象徴している。今後、Apple Carが社内技術資産としてAI戦略に転用される可能性も否定できず、この挫折は決して無駄にはならないだろう。

実現寸前で頓挫したAirPowerとMagSafeの残響

2017年に公式発表されたAirPowerは、iPhone・Apple Watch・AirPodsを同時充電可能な夢の充電マットとして大きな注目を集めた。しかし、Qi規格による複数コイルの配置設計、加えてApple Watch独自の非互換仕様の統合が障壁となり、開発段階で深刻な過熱問題を引き起こしたとされる。

Appleは2019年、正式にこのプロジェクトの中止を発表し、ユーザーの期待は落胆に変わった。その後継となるMagSafe Duo Chargerが2020年に登場したものの、価格の高さやヒンジの耐久性不足、Apple Watch高速充電への非対応といった不満を招き、2023年に販売終了に至った。

Appleが製品の完成度に妥協せず撤退を選ぶ背景には、ブランドに対する信頼性の維持が最優先されていることがうかがえる。ワイヤレス充電という生活密着型機能で失敗すれば、企業イメージの失墜は避けられない。Appleの設計思想が現実の物理制約と交差したとき、どこまで理想を追求できるのかが問われる場面であった。

AI時代への試金石となるSiri 2.0の迷走

2023年のWWDCで発表されたSiriの進化版「Siri 2.0」は、画面内容の認識やサードパーティアプリとの統合、ユーザー個人データの活用を可能にする次世代AIアシスタントとして紹介された。iOS 18への搭載が見込まれ、広告キャンペーンも展開される中で大きな期待を集めたが、2025年3月にAppleはリリースを翌年以降へ延期すると発表。

さらに開発の遅れや、システムの再構築が必要になる可能性まで報じられている。この事態は、他社がAI分野で急速に成果を上げる中、Appleの慎重な姿勢がかえってリスクとなる構図を露呈した。ユーザーデータの機密性確保や予測不能なAIの振る舞いに対応するには、高い信頼性と精度が求められる。

Appleが従来の「完成してから発表する」という哲学をAI分野でも貫くとすれば、競争力の維持は一層厳しさを増すだろう。Siri 2.0の開発停滞は、単なる技術的課題にとどまらず、Appleの今後のAI戦略全体に影響を及ぼす分水嶺となる可能性がある。

Source:Macworld