ナイキ(NKE)の株価が、2021年末のピークから63%下落し、時価総額は1,000億ドルを下回った。2025年に入ってからも12%以上の下落を記録しており、3月20日の決算発表後には市場の失望を受けて急落。業績面では、売上が4四半期連続で減少し、粗利益率もCOVID-19以降で最低水準となった。

中国市場では売上が前年比17%減となり、AntaやLi-Ningといった現地ブランドに押される格好となった。CEOエリオット・ヒルは再建を目指し、「Win Now」戦略を掲げてサードパーティとの関係修復やマーケティング強化に乗り出すが、短期的には収益悪化が避けられず、再建には時間を要するとみられる。

一方で、著名投資家ビル・アックマンの買い増しやアナリストの買い推奨もあり、現在のPER32倍は割高との見方がある一方で、短期的な業績低迷を織り込んだ過剰反応との評価も根強い。投資家にとっては、中期的な成長性と目先のリスクを天秤にかける局面に差し掛かっている。

売上低迷と利益率悪化の背景に見る構造的課題

ナイキは2025会計年度第3四半期において売上が前年比9%減少し、これで4四半期連続の減収となった。粗利益率も41.5%まで下落し、パンデミック影響下を除けば過去10年以上で最も低い水準である。今四半期も二桁台半ばの売上減が予測され、収益構造の脆弱さが露呈している。売上減の要因としては、パンデミック期に採用した自社チャネル重視戦略が現在の実店舗回帰の消費行動と乖離し、供給不足を引き起こした点が大きい。

加えて、製品開発における革新性が薄れ、アディダス、ニューバランス、ホカ、オン・ランニングといった競合ブランドに市場シェアを奪われた結果、ナイキの製品力自体に疑問が生じている。売れ残り在庫はキャッシュフローを圧迫し、在庫削減も容易ではない。さらに、中国市場ではAntaやLi-Ningが急伸し、売上は17%の大幅減少となった。このような複合的要因が重なり、ナイキの事業基盤に構造的な揺らぎが生じている。

ヒルCEOの再建戦略にみる成長回復への試み

CEOに復帰したエリオット・ヒルは、ナイキの立て直しを図るべく「Win Now」戦略を打ち出した。その柱は、かつて疎遠となっていたサードパーティとの関係修復と、マーケティング費用の積極的投下による需要創出にある。また、自社チャネルを単なる直販経路ではなくプレミアムな購買体験として位置付け直すとともに、スポーツカテゴリーの再編と在庫圧縮を通じた健全な成長基盤の再構築を目指している。

しかしながら、再建策は中長期的な視点で効果を発揮する性質のものであり、短期的には利益の圧迫が不可避とされている。実際、アナリスト予測では今会計年度の利益は46%超減少し、翌年も1.4%の減益見通しとなっている。ナイキのブランド価値を中核に据えつつ、定価販売モデルへの回帰を志向する構えだが、成功には粘り強い施策の遂行と市場の信頼回復が不可欠である。

投資判断を分ける成長期待と不確実性の均衡

株価は2021年末のピークから63%下落し、時価総額は1,000億ドルを割り込んだ。現在のPERは32倍と、一見割高に映るが、短期的な業績悪化を反映した数字として捉えれば、市場の過剰反応という見方もある。実際に、DBSやジェフリーズなど一部の金融機関はナイキ株を「買い」へ格上げしており、著名投資家ビル・アックマンも第4四半期にかけて保有株を増やしている。

一方で、中国市場の競争激化や、追加関税のリスク、ブランド再構築に要する時間など、不確実性の高い要素も多く残されている。現時点での株価は目標水準より26%下にあるものの、それを成長余地と捉えるには財務的な下振れリスクを無視できない。将来的な収益力への期待と短期的な脆弱性がせめぎ合うなかで、投資家の姿勢次第で評価は大きく分かれる局面にある。

Source: Barchart