米商務省産業安全保障局は、中国、台湾、イラン、パキスタンなどに拠点を置く約80社を新たにエンティティリストに追加した。対象企業には、AIやスーパーコンピューティング、量子技術など軍事転用可能な最先端分野の中国企業が多く含まれており、中でも北京人工知能アカデミーやインスパー・グループ関連の6社が名を連ねた。
米国はこれら企業がエクサスケール級スーパーコンピュータや極超音速兵器開発に関与している可能性があると指摘し、国家安全保障上の懸念を理由に輸出統制を強化。中国政府および該当機関は強く反発し、国際規範への違反と主張している。
この動きは、トランプ政権が進める対中強硬策の一環であり、関税引き上げを含む貿易戦略との連動が注目されている。
エンティティリスト追加の焦点はAIと量子技術による軍事転用の阻止

米商務省産業安全保障局が発表したエンティティリスト更新では、スーパーコンピューティング、人工知能(AI)、量子技術など先端分野に特化した中国企業が中心的な対象となった。特に、インスパー・グループ傘下の6社と、非営利研究機関である北京人工知能アカデミー(BAAI)が名指しされ、軍事開発との関連が疑われている。審査委員会は、BAAIおよび北京創新智恵科技有限公司が大規模言語モデルや高性能半導体の研究を通じて、軍事応用に寄与したと判断した。
この規制強化の背景には、中国によるエクサスケール級スーパーコンピュータや極超音速兵器などの取得・開発を食い止めるという米国の強い意図があると見られる。AI技術と計算資源は、兵器開発や戦略的意思決定の自動化に不可欠であり、特に軍事転用の可能性がある分野に対しては、民間と軍事の境界を曖昧にする中国の「軍民融合」政策への警戒が高まっている。米国による今回の措置は、そうした脅威を技術面から封じ込める枠組みの一環と位置付けられる。
米中対立の新局面としての技術規制と経済報復の連鎖
今回のエンティティリスト拡張は、米中間の貿易摩擦が技術領域にまで波及していることを明確に示している。トランプ政権は2023年以降、対中政策を再強化し、中国製品への関税を20%に引き上げた。さらに、ベネズエラ産のエネルギー資源を購入する国々に対して25%の追加関税を課す決定も下しており、中国がその主要輸入国であることから、実質的な圧力の矛先が明確である。中国側もこの動きに強く反発し、アメリカ製品への関税報復や独禁法によるGoogle調査の開始、自国制裁法制の整備など対抗措置を相次いで打ち出している。
これにより、単なる経済摩擦を超えた地政学的競争の様相を帯びつつあり、サプライチェーンの分断や国際技術標準の分裂といった長期的リスクも孕む。米国の規制が国際的企業間取引に波及し、サードパーティー国にも再輸出制限が及ぶことで、技術の流通構造そのものが再編を迫られる局面となる可能性がある。相互不信が制度的対応へと発展しつつある今、経済と安全保障の境界がますます曖昧になる中で、技術を巡る覇権争いは一段と複雑化している。
Source: Barchart