NVIDIAをはじめとする主要半導体企業の株価が下落した。背景には、米国の対中輸出規制の強化と中国政府による新たな環境規制がある。トランプ政権は国家安全保障を理由に80の中国企業を新たに輸出禁止リストに追加し、最大手のサーバーメーカー「Inspur」も対象となった。

NVIDIAは中国市場で最大約170億ドルの売上を誇り、そのうちデータセンター分野が約120億ドルを占めるが、環境制約により中国向け専用チップ「H20」の販売が阻まれる可能性も浮上した。加えて、中国企業幹部からはAI投資の過熱に対する警戒感も示され、AI関連銘柄として急成長してきたNVIDIAの投資ストーリーに冷や水が浴びせられた格好となっている。

米中対立の余波でNVIDIAに逆風 専門家が指摘するAI市場への影響

NVIDIAの株価が6%下落した背景には、米中間の貿易摩擦の再燃がある。トランプ政権は新たに80の中国企業を輸出規制リストに加え、その中にはNVIDIAの主要顧客である中国最大のサーバーメーカー「Inspur」も含まれた。これにより、NVIDIAが主力とするAIデータセンター向けのチップ供給が困難になるとの懸念が市場に広がった。また、AMDとIntelも同様にInspurと取引関係にあるため、業界全体への波及が警戒されている。

NVIDIAの中国市場における売上は、2025年度で約170億ドルと試算されており、そのうち約120億ドルがデータセンター事業に関連する。全体の売上に占める割合は13%前後に過ぎないが、戦略市場としての重要性は極めて高い。さらに、中国政府が高度半導体向けのエネルギー効率規制を強化したことで、中国市場専用に設計されたH20チップの販売も制限される可能性が浮上している。

DAデビッドソンのアナリスト、ギル・ルリア氏は「米中の貿易戦争にNVIDIAが巻き込まれること自体がネガティブ材料」と警鐘を鳴らしており、今後も規制環境の変化に神経をとがらせる必要がある。こうした状況下では、米国企業が中国のAI市場から締め出されるリスクも否定できず、競合である華為技術(Huawei)などへの市場シフトが一層進む恐れもある。

AI成長神話に陰り 中国企業幹部の慎重姿勢が示す過熱相場の行方

Financial Timesの報道によれば、中国政府は新たに高性能半導体に対するエネルギー効率の基準を強化した。これにより、中国市場向けに最適化されたNVIDIAのH20チップなどが販売困難になる可能性が指摘されている。NVIDIA側は「全市場において高いエネルギー効率を提供している」と主張する一方で、米国の輸出管理政策が急速に変化する技術革新に追いついていないと訴えている。これが事実であれば、規制と技術発展の間に深刻なミスマッチが生じていることになる。

さらに注目すべきは、中国の一部企業幹部がAI関連投資に対して慎重な見解を示した点である。NVIDIAの急成長は生成AIの爆発的な需要に支えられてきたが、「AIバブル」への懸念が表面化したことで、成長期待そのものが揺らぎ始めている。バーンスタイン・リサーチのアナリスト、ステイシー・ラスゴン氏も「このブームがいつ終わるのかという不安は当初からあった」と語り、投資家心理の変化を示唆している。

AIに対する過剰な楽観論が揺らぎ始めた今、NVIDIAの今後にはより厳格な検証の目が向けられる。技術力や製品性能に加えて、国際政治リスクや市場心理の変化をいかに乗り越えるかが問われており、一極集中型の成長モデルは転換点を迎えている可能性がある。

Source:msn