2025年3月26日、テスラ株は5.6%下落し、再び200日移動平均線を下回った。株価は3月11日の年初来安値から33%上昇しているが、年初来では依然28%の下落を記録し、S&P500構成銘柄中ワースト水準にある。

イーロン・マスク氏は社内全体会議でロボタクシーや人型ロボット「オプティマス」による将来的成長を強調したが、2025年の販売見通しは小幅な伸びにとどまるとの見解も示した。一方、政界との関与がブランド価値に打撃を与えているとの指摘も強く、投資家心理を冷やしている。

市場では第1四半期決算を前に、マスク氏がCEO業務とのバランスや新型車の投入時期を明確に示す必要性が高まっているとの声が強まっている。

株価の乱高下が示すテスラの変調とブランド価値の揺らぎ

テスラ株は3月11日に217.02ドルまで下落後、約33%回復したが、3月26日には再び5.6%安の272.06ドルまで下落し、200日移動平均線を割り込んだ。短期的な反発が続いたとはいえ、年初来で28%の下落という現実は、投資家の根強い不信感と構造的な不安材料を浮き彫りにしている。特に2月から3月にかけてのサポート水準割れは、テクニカル的にも市場のセンチメントが大きく崩れた証左である。

加えて、CEOであるイーロン・マスク氏の政治的活動とその影響も見逃せない。同氏がトランプ政権下の「政府効率化省(DOGE)」を率いていることが、テスラを中立的なテクノロジー企業から政治的象徴へと変質させたとの声がある。アナリストのダン・アイブス氏はこれを「ブランドの毀損」とまで表現し、CEOの公私混同が企業価値に影を落としていると警鐘を鳴らしている。これらの要素が重なり、テスラはもはや成長株というよりも不安定な象徴株としての色合いを強めている。

このように株価の短期回復に過度な楽観は禁物であり、現段階では「底打ち」の判断には慎重な視点が求められる。

マスク氏が描く長期戦略とロボティクス依存の構図

3月20日の全社ミーティングでマスク氏は、ロボタクシーや人型ロボット「オプティマス」による将来的価値創出に強気な姿勢を示した。特に、2026年から2028年にかけての成長曲線を「劇的」と表現し、2025年には5,000体、2026年には5万体のオプティマスを生産する計画に言及したことは注目に値する。また、完全自動運転(FSD)の無監視運用が6月にテキサス州オースティンで開始予定である点も、将来の自動運転ネットワーク構築を見据えた布石と見られる。

だが現実には、四半期決算のEPSが49セントまで落ち込む見通しや、納車台数の見通しが約10%引き下げられていることからも分かるように、足元の業績は依然厳しい。マスク氏が語る未来像と、目の前の数値とのギャップがあまりに大きく、かえって不安感を煽っている印象も否めない。

長期的な技術ビジョンに資本が集中しすぎれば、本業たるEV事業の停滞が加速するリスクもある。今後はそのバランスをいかに示すかが、経営者としての力量を問う重要な局面となる。

テスラに求められる投資家との対話と現実的な経営舵取り

アナリストの間では、現在のテスラ株の状態を「自動車専業からAI・ロボティクス企業への転換期」と見る声もある。モルガン・スタンレーのアダム・ジョナス氏は、価格目標を430ドルから410ドルに引き下げながらも、「転換途上の一時的停滞」と位置づけ、依然としてオーバーウェイトを維持している。しかしその一方で、価格下落の原因が業績よりもマスク氏の言動や政治色にあるという見方は、より深刻で根本的な問題を浮かび上がらせる。

事実、ARK Investのキャシー・ウッド氏のように、ロボタクシー事業の成長を前提とした中長期投資に踏み切る動きも見られるが、これはテスラの「夢」に賭ける姿勢であり、現実的な経営数値や商品ラインアップの更新が伴わなければ、信頼の持続は困難である。実際、モデルYの刷新や価格調整も在庫過多への対処としては効果が薄いとの見方がある。

市場は今、華々しい未来予測ではなく、目の前の数値と経営計画の整合性を求めている。マスク氏が公に業績と政治活動のバランスについて明言するか否かが、株主との信頼回復の分水嶺となるだろう。

Source:investors business daily