2025年2月、Crunchbaseが選出するユニコーン企業に新たに9社が加わった。中でも米国発のヘルスケアとアイルランドやイスラエルのサイバーセキュリティ企業が突出し、AI技術の実装が企業評価に大きく寄与している。
地域的にはアメリカが最多となる4社を占め、他にサウジアラビア、中国、カナダなど多極化が進んでいる点も特徴的だ。グロース・エクイティが主導した投資が6件に上り、依然として未公開市場における資金の厚みが際立つ。
合計で156億ドルの企業価値と19億ドルの資金が加わり、AIを支える基盤技術としての医療・セキュリティ分野の地位がより明確になった。
ヘルスケアとセキュリティが示す次世代AIの応用領域

2025年2月にユニコーン入りした9社のうち、AbridgeやOpenEvidenceなど医療分野の企業が際立つ成長を見せた。Abridgeは患者と医師の会話を記録し、診療報酬の請求を支援するAIを提供しており、28億ドルの評価額でシリーズDにて2億5000万ドルを調達。OpenEvidenceも医師向けのAIコパイロットで7500万ドルを集め、全米の1万以上の医療機関で活用されている。
一方、セキュリティ領域ではTinesとDream Securityが評価額11億ドルに到達。Tinesはコード不要のセキュリティ自動化ツールを開発し、ゴールドマン・サックスやソフトバンクが資金を拠出。Dream Securityは国家規模の防衛技術を持ち、元オーストリア首相セバスチャン・クルツが共同創業者に名を連ねている。
これらの事実は、医療と安全保障が単なるインフラ領域ではなく、AIによって変革されうる最前線にあることを示唆する。診療支援や国家防衛のような高リスクかつ専門性の高い分野でAIが実用段階に入りつつある現状は、産業構造の再編を見据えるうえで重要な指標となる。
地理的分散と投資構造が映すユニコーンの進化
今回の9社の中で、米国から4社が登場したことは依然として米国のスタートアップ優位を示すが、それ以上に注目すべきはその他5社の多様な地理的出自である。カナダ、中国、イスラエル、アイルランド、サウジアラビアと、いずれもテック分野で急成長を見せる新興拠点からユニコーンが誕生している。とりわけ、創業から1年未満のGI Water as a Serviceが評価額10億ドルに到達した点は特異である。
また、資金調達の内訳ではグロース・エクイティ・ファームが6件、ベンチャーキャピタルが3件を主導し、規模と成熟度の高い資金がスタートアップの価値形成に深く関与している構造が明らかとなった。特にStackAdaptやOlipopのように既に実績ある企業がさらに大型の資金を引き寄せていることは、初期段階よりも成長段階への資金集中が進んでいることを示す。
このように、地域の多様化と資金の選別傾向は、世界的なスタートアップ市場の新たな段階を物語る。ユニコーンの定義がかつてのような「急成長の象徴」ではなく、AI・環境・ヘルスケアといった社会的ニーズに応じた本質的な価値を内包する存在へと変容している兆しと捉えられる。
Source:Crunchbase News