AppleはApple TV+の人気ドラマ「セヴェランス」シーズン2の終了にあわせ、同作の編集現場に迫る12分間の舞台裏映像を公開した。注目すべきは、劇中に登場する「Lumon Terminal Pro」という架空のMacを“新製品”として公式サイトに登場させた点にある。
このプロモーションはApple.comのMac製品ページ上で展開され、視聴者をビデオへと誘導する。映像内では83テラバイトに及ぶ膨大な映像素材の編集プロセスが紹介されており、Mac miniやMacBook Proが実際の制作現場で使用されたが、編集ソフトにはApple純正のFinal Cut Proではなく、Avidの業界標準ソフトが採用されている。
Appleはコンテンツとハードウェアの融合を図る中で、製品ではなく世界観を売るという新たなアプローチを提示した格好だ。
架空のMac「Lumon Terminal Pro」が公式サイトに登場 ブランド戦略としての仕掛け

Appleは、Apple TV+のドラマ「セヴェランス」に登場するデスクトップ型Mac「Lumon Terminal Pro」を、あたかも新製品であるかのように自社公式サイト上に掲載し、ブランドの世界観を大胆に演出した。製品情報ページには通常のMacBook Airなどと並ぶかたちでこの架空端末が登場し、下部には関連映像への導線が配置されている。
これは実際には販売されないモデルでありながら、実在のMacと同列に扱うことで、ドラマのリアリティとApple製品の存在感を同時に引き立てている。このようなアプローチは、単なるプロモーションを超えたメディア融合の象徴とも言える。
Appleがかねてより展開してきた「Behind the Mac」シリーズの延長線上にありながらも、今回はフィクションの要素を組み込むことで、従来の製品紹介動画とは一線を画す。エンターテインメントとテクノロジーを横断するこの施策は、視聴者にAppleの“世界観”を強く印象づける効果がある。
こうした演出は、ユーザーに単なる製品機能以上の体験を提供しようとするAppleの方向性を如実に示す。もはや製品単体ではなく、文脈やストーリーごと訴求することが、今後のブランド価値創出における重要な鍵となる可能性がある。
編集現場で明かされた「Avid」使用の背景 Apple製ソフトとの住み分け
映像内では、番組制作チームが83テラバイトに及ぶ膨大な映像素材をMac miniやiMac、MacBook ProといったApple製ハードウェアで処理していた事実が語られている。ただし注目すべきは、その編集に使用されたソフトウェアがApple純正のFinal Cut ProやLogicではなく、業界標準であるAvidのソフトであった点である。
これはハリウッドにおける制作現場の現実を示すものであり、Apple自身もその事実を否定せず映像に盛り込んでいる。Avidはプロフェッショナル向けポストプロダクション分野において圧倒的な地位を占めており、ワークフローや業界慣習の点で多くの大規模制作に不可欠とされている。
Appleとしても、この実情を隠すことなく提示することで、自社製品がプロの現場でもハードウェアとして信頼されている事実をアピールしている。ソフトウェアでの主導権争いとは一線を画し、エコシステムの“土台”を担うという意図が透けて見える。
AppleがFinal Cut Proの高度化に注力しつつも、特定分野での支配的地位の獲得に至っていないことは否めない。一方で、Avidの存在を前提とした上で自社ハードの普及を図る姿勢は、現実的かつ柔軟な戦略の一環と解釈できる。ハードウェアとソフトウェアの分離戦略が今後の制作支援分野にどのような影響をもたらすか、注視する必要がある。
Source:Macworld