台湾の半導体大手TSMCは、アリゾナ州に建設中の米国工場において生産体制の加速を表明した。初の米国工場は稼働までに5年を要したが、今後は最大2年で立ち上げる計画で、2028年には3nm、2030年以前には2nmチップの製造を見込んでいる。
Appleはこの動きを追い風とし、「Made in America」チップの供給を強化する構えだが、現時点では旧型モデル向けチップに限定されている。一方で、TSMCの先端技術とR&D拠点は依然として台湾に集中しており、米国の技術的自立には依然として課題が残る。
元インテルCEOパット・ゲルシンガー氏も米国工場の意義に懐疑的な姿勢を示し、「研究開発の不在が米国の半導体主導を阻む」と指摘している。
AppleとTSMCの米国製造強化に見る技術と供給網の構造的課題

TSMCはアリゾナ州に建設した最初の工場において、iPhone 14 Pro向けのA16チップなど旧世代のApple製品向けの製造を開始する計画を掲げてきた。しかし予定された2024年の量産開始は遅れ、実際には2025年以降にずれ込む見通しとなった。
TSMCはこの反省を踏まえ、今後の米国内工場については最長でも2年以内の稼働を目指すとし、2028年には3nm、2030年には2nmの先端製造に対応する工場を稼働させる計画を公表している。ただし、製造されるチップは依然としてAppleの現行最上位モデル向けではなく、販売継続中の下位モデルや旧型製品向けにとどまる公算が大きい。
これはTSMCの先端プロセスが引き続き台湾に集約されているためであり、米国工場の役割は“補完的製造拠点”に過ぎないことを物語る。つまり、米国内での半導体製造が進展しても、Appleのグローバル供給網の根幹を揺るがす構造的転換には至っていない。
米国の半導体自立を阻む「研究開発の不在」と台湾依存の現実
TSMCが米国で生産を強化しても、研究開発拠点は一貫して台湾に集中している。元インテルCEOのパット・ゲルシンガー氏が「米国にR&Dがなければ、半導体リーダーシップは成り立たない」と述べたように、製造拠点のみの拡張では国家的な技術主導の体制にはなり得ない。
CHIPS法によって生産施設への補助が進む一方で、設計や技術革新の源泉が国外にある現状は、米国の戦略的脆弱性を浮き彫りにしている。TSMCがR&D機能を台湾に留める背景には、自社の最先端技術の知的財産保護があると見られる。そのため米国内の拠点には、機密性の高いノウハウやプロセス技術は移管されない公算が高い。
この構図の下では、米国が製造量を増やしたとしても、技術主導の産業地位を取り戻すには不十分といえる。サプライチェーンの地政学的リスクを軽減する取り組みとしては一定の効果を持つが、それは限定的かつ補完的な役割にとどまる可能性がある。
Source:9to5Mac