Appleは2023年9月、iPhone 13 miniの販売終了をもって、5.4インチディスプレイを搭載した小型フラッグシップモデルの提供に終止符を打った。2020年に登場したiPhone 12 miniは、一部に熱狂的支持を得たものの、シリーズ売上全体のわずか6%にとどまり、市場全体での需要は伸び悩んでいた。
現行ラインナップは6.1〜6.7インチへと集約され、Apple Intelligenceをはじめとする高度な機能を支える大型筐体へとシフトしている。エンタメ消費と生産性を重視するユーザー層の需要に対応した戦略転換とみられ、次期iPhone SEも大型化する可能性が高い。
コンパクトモデルを望む声は根強いが、miniの再登場に関する具体的な計画やリークはなく、現時点では中古市場が唯一の選択肢となりつつある。
iPhone miniが直面した販売不振の実態とAppleの静かな決断

iPhone miniは2020年にiPhone 12シリーズの一角として市場に投入され、コンパクトな5.4インチの筐体にフラッグシップ級の性能を詰め込んだ意欲作だった。しかし、その販売実績は芳しくなく、2021年初頭にはiPhone 12シリーズ全体の売上のうち、miniが占めた割合はわずか6%にとどまった。
この傾向は後継のiPhone 13 miniでも改善されず、Appleは2023年9月、同モデルの販売を静かに終了した。この決断は単なる一機種の終売にとどまらず、Appleが消費者ニーズの変化に即応する姿勢を示すものである。ストリーミング、SNS、ゲームといった大画面を前提とする使用スタイルが主流となる中で、片手操作や持ち運びやすさよりも、視認性とマルチタスク性能への要求が高まっていた。
Appleはこうしたトレンドに適応する形で、iPhone 14 PlusやPro Maxといった大型モデルの拡充を進めている。Appleがminiの終売を大々的に発表しなかった点も注目に値する。販売終了は「静かに」行われ、代替モデルであるiPhone 14 Plusが自然な移行先として用意された。
この処理は、製品戦略としての一貫性を維持しつつ、失敗の印象を与えない配慮とも読み取れる。数値に裏打ちされた冷静な判断であり、ブランドイメージを損なわない実務的な選択といえる。
Appleが描く「大画面時代」の戦略と技術的要請
現在のAppleのiPhoneラインナップは、6.1インチを起点とし、最大で6.7インチに達する構成へと完全に移行している。この背景には、ディスプレイの大型化によって、バッテリー容量の増強や先進機能の搭載が可能となるという技術的利点がある。
iPhone miniが抱えていた構造上の制約──限られた筐体におけるバッテリー容量や冷却性の不足──は、Apple Intelligenceのような高度な機能の導入において、明確な障壁となっていた。特にAppleは、120HzのProMotionディスプレイ、高度な望遠カメラシステム、AI処理を支えるニューラルエンジンといったリソース集約型の機能を中核に据えつつある。
これらの技術は、省スペース設計のminiモデルには物理的に収まりきらず、熱設計上の限界も存在する。結果として、Appleは設計自由度と性能拡張性の両立が可能な大画面モデルを優先せざるを得なかった。また、エコシステム戦略の観点からも、大画面デバイスとの連携が重視されている。
iPadやMacとのContinuity機能、Apple Watchとのヘルスデータ共有、AirDropやUniversal Clipboardといった機能の滑らかな運用には、ある程度の処理能力と表示領域が求められる。iPhone miniはそうした一連の体験を十分に支えるには力不足だったという見方ができる。コンパクトさという魅力を持ちながらも、Appleの求める総合的なユーザー体験には馴染まなかった構造的現実があった。
Source:AppleMagazine