米国の制裁下で唯一中国に供給可能な高性能AIチップ「H20」を巡り、NVIDIAが深刻な供給難に直面している。中国の大手サーバー企業H3Cが顧客向けに在庫逼迫を通知し、優先的な大口供給体制への移行を余儀なくされている。これにより、同GPUを利用したAI開発の進行にも影響が及ぶ可能性がある。

背景には、中国政府の旧通知による環境規制との整合性問題や、NVIDIA側の生産制約が指摘されており、供給遅延は少なくとも4月下旬以降も継続する見通しとなった。NVIDIAの中国市場依存度は最大で売上の10%に達する可能性があり、株価も5日間で4.3%、年初来で19%下落している。

加えて、トランプ政権がH20の対中輸出制限を検討しているとの報道も重なり、中国企業は自社開発のGPUや代替プログラミング言語に急速にシフトしている。AI覇権を巡る米中間の構造的対立が、民間市場にも深い影を落とし始めた。

H20の供給逼迫が明らかにしたNVIDIAの対中戦略の限界

NVIDIAが中国市場向けに設計したH20 GPUが、米国の対中輸出規制をかいくぐる形で供給されている中、その生産に支障が生じている。中国の大手サーバー企業H3Cは顧客向けに通知を発出し、在庫の逼迫と供給遅延を明言。

GPUの優先供給は大口顧客に限られ、小規模な顧客にとっては導入時期の見通しが立たなくなりつつある。H20は、DeepSeekによるAI性能の実証結果から注目が集まり、国内各社が同製品の確保を急いでいた。

生産上の制約については、NVIDIAが自主的に出荷調整を行っている可能性も否定できない。背景には、今後の規制強化や方針変更に備え、過剰な在庫を抱えるリスクを回避する意図があると見られる。

また、GPU供給の不安定さは、AI関連プロジェクトの進行を遅延させるのみならず、中国企業による自国製チップ開発のインセンティブを加速させる構図となっている。米国の制裁が単なる抑制策にとどまらず、市場構造そのものを変えつつあることがうかがえる。

対中依存が突きつけるNVIDIAの収益構造リスク

NVIDIAは売上の最大10%を中国市場から得ている可能性があるとされており、H20の供給難は同社の収益に直接的な打撃を与える懸念が強まっている。

直近5日間で4.3%の株価下落、年初来では19%の下落幅を記録しており、市場は中国リスクの再燃に神経質な反応を見せている。特にBlackwellシリーズなど、最新AI GPUの輸出がすでに制限されている中で、H20は中国に供給可能な唯一の高性能GPUであるがゆえに、同製品への過度な依存が露呈した格好だ。

また、トランプ政権がH20の対中輸出規制を検討しているとの報道もあり、NVIDIAの対中戦略は今後さらに不透明さを増す可能性がある。中国企業はすでにHuaweiの「CANN」など、自前のGPUプラットフォーム開発に取り組んでおり、CUDA支配に対抗する構図が浮かび上がっている。

この動きは中長期的にNVIDIAの中国市場における技術的優位性の低下を招き、収益構造の再構築を迫られる事態に発展する可能性も否定できない。

Source:Wccftech