2024年初頭に急騰したArm Holdings(ARM)の株価は、わずか数カ月で52週高値から40%も下落し、年初来でマイナス圏に沈んだ。背景には依然として重いバリュエーション懸念に加え、Qualcommが米欧韓の規制当局に提起した独占禁止法違反訴訟がある。
QualcommはArmが自社チップ強化のためライセンス供与を制限していると主張し、訴訟報道直後には株価が7.5%超下落した。AIやクラウド需要を背景とした収益の拡大が続く一方で、規制リスクや世界的なIT投資の減速が、将来の収益成長と高水準の予想PER137.8倍に影を落としている。
成長期待が株価に織り込まれ過ぎているとの指摘もあり、現状は希望と懸念が拮抗する局面にある。
Qualcommとの法的対立がArmの成長路線に投げかける影

2024年3月26日、Bloombergの報道により明るみに出たQualcommによる独占禁止法違反の訴えは、Armにとって予期せぬ外圧となった。米国、欧州、韓国の三大規制当局に対する申し立ては、単なる一企業間の契約紛争ではなく、Armのライセンス戦略そのものへの疑念を呼び起こしている。かつては広く技術を開放していたArmが、近年では自社チップ事業の成長を優先し、競合他社へのアクセス制限を強化しているとの指摘は、業界全体に波紋を広げつつある。
Arm側はこの動きを正当な商業戦略と位置づけ、契約義務の履行と競争促進を掲げて防戦に出ているが、規制当局の判断次第では、ライセンスモデルの見直しや収益源の再構築を迫られる事態にもなりかねない。法的プロセスが長期化すれば、市場の不透明感も続き、投資家心理への影響は無視できない。
この訴訟の本質は、半導体業界の主導権を巡る競争構造の変化を映し出している。Armにとっては、技術的優位性のみならず、そのビジネスモデル自体の持続可能性が改めて問われる局面である。
業績の堅調さと評価のギャップがもたらす市場の揺らぎ
2024年第3四半期の決算において、Armの売上高は9億8300万ドルに達し、前年同期比でロイヤルティ収入が23%増加した。この成長を牽引したのは、Armv9アーキテクチャの採用拡大と、データセンター向けのCSS(Compute Subsystems)による収益貢献である。特にAmazonのAWSにおけるGravitonプロセッサの普及が象徴するように、Armの技術はクラウドやAIといった成長市場で着実に存在感を強めている。
一方、株式市場においては、この業績好調がそのまま株価の裏付けとは見なされていない。現在の予想PER137.8倍、P/S40.28倍という水準は、将来の成長期待を極端に織り込んだ評価と見られ、足元の成長率との乖離が不安定な値動きの一因となっている。成長が一時的に鈍化しただけでも、過剰な下方修正がなされるリスクが高い。
市場にとってArmは、技術革新の象徴であると同時に、過度な期待が乗った脆い構造物でもある。そのギャップこそが、現段階での株価変動を読み解く鍵である。
Source: Barchart.com