米国債の利回りが長短逆転する「逆イールド」が史上最長の783日間続いたにもかかわらず、米国経済は明確な景気後退に陥っていない。この異例の展開に、市場関係者は困惑しつつも、消費者信頼感の急落やGDP成長率の大幅な下方修正といった弱含みのデータに注視している。

インフレと成長の不均衡が露呈する中、トランプ前大統領の関税政策が不透明感を強め、スタグフレーション懸念も拭えない。こうした不安定な局面で注目されるのが、ウォーレン・バフェットが強調する「冷静さを保て」という姿勢である。

市場のノイズに翻弄されず、財務体質が堅固な銘柄への長期的視点を持つことが、乱気流の中で試されている。逆風の今こそ、投資家の胆力が問われるタイミングといえよう。

米成長率の急低下と消費者心理の悪化が示す転換点

アトランタ連邦準備銀行のGDPナウモデルは、2025年第1四半期の米国実質成長率を-1.8%と大幅に下方修正した。これは四半期当初の2.3%成長予測から急転直下の見通し変更であり、経済の勢いが急激に失われつつある現実を示している。加えて、2月の失業率は4.1%へと上昇し、雇用の伸びも市場予想を下回る水準にとどまった。

同時に、消費者の心理も冷え込みを見せている。ミシガン大学の3月の消費者信頼感指数は57.9と、2022年11月以来の低水準を記録し、市場の予想を大幅に下回った。特に注目すべきは、1年後および5年後のインフレ率に対する期待が上昇している点である。これは、今後の物価高への警戒感が根強いことを意味しており、可処分所得の減少や家計支出の抑制につながるリスクがある。

このようなデータの変調は、単なる一時的な揺らぎではなく、景気循環の局面転換を示唆する兆候と見る見方がある。経済の足元に生じているひずみは、これまでの「景気後退なき逆イールド」という例外的状況が長く続かないことを警告しているといえる。

「冷静さを保て」の真意とバフェット流の行動原則

ウォーレン・バフェットが引用する詩「If」の一節、「冷静さを保て」は、単なる精神論ではなく、極度の不確実性に直面した際の実践的な行動指針といえる。彼が繰り返し主張してきたのは、市場の短期的な変動に一喜一憂せず、財務が健全でビジネスモデルに持続性のある企業への投資を続けることの重要性である。

実際、2024年から2025年にかけて、S&P500は非常に速いペースで調整局面に入ったが、こうした下落局面においてこそ、割安となった優良銘柄を拾う好機が生まれる可能性がある。バフェットが強調するのは、相場が混乱する中でも余剰資金を用いて計画的に投資を継続する姿勢であり、盲目的な「買い持ち」ではなく、情報に基づいた判断力と規律ある投資行動が求められる。

また、過去の多くの不況においても、忍耐強く市場に留まり続けた投資家が最終的に報われてきた事例は少なくない。今のようにデータが不安定で先行きが読みにくい局面においてこそ、バフェットの哲学はその真価を発揮すると言えるだろう。市場の「声」に流されず、確かな投資仮説に基づいて冷静な判断を下せるかどうかが、将来の成果を大きく左右する分水嶺となる。

Source:The Motley Fool