米CNBC「マッドマネー」で知られるジム・クレイマー氏は、2024年4月にテスラ株について「不死身のテック企業ではなく、凡庸な自動車メーカーだった」と語り、販売台数の下振れを根拠に慎重姿勢を示した。しかし2025年3月時点でテスラ株は72.92%の上昇を記録。
ヘッジファンド126社が保有する中で、イーロン・マスク氏の政治的言動が需要に影響する可能性も懸念されている。株価の反発は、政策的な保護主義の緩和や自動運転データへの期待感が背景にあるとされ、株式市場全体の回復とともに語られる存在となっている。
テスラの実績とジム・クレイマー氏の評価の乖離

ジム・クレイマー氏は2024年4月時点で、テスラの販売台数が市場予想を大きく下回ったことを理由に、同社を「死すべき存在の自動車企業」と位置づけ、かつてのようなテクノロジー主導の成長は見込めないと指摘していた。実際、当四半期の販売台数は387,000台にとどまり、457,000台を見込んでいた市場の期待を大きく裏切る結果となっていた。このような評価は、成長株としてのテスラに対する過度な期待の反動とも見て取れる。
しかし、2025年3月24日時点でテスラ株は72.92%の上昇を記録しており、市場の評価は明らかにクレイマー氏の慎重な見立てとは異なる方向へと進んでいる。これにより、同氏が指摘した懸念は現時点では株価に織り込まれていないか、あるいは市場が短期的な数字よりも将来的な成長ストーリーに再び賭けている可能性がある。特に電気自動車や再生可能エネルギー事業における先行者利益、あるいは自動運転技術への期待が、株価の下支え要因として作用しているとみられる。
政策転換と保護主義の再定義が株価を押し上げた背景
クレイマー氏は「マッドマネー」において、トランプ前大統領の通商政策についても言及し、以前は強硬な関税措置を辞さない姿勢だったが、市場が調整局面に入った2024年3月以降、そのスタンスが軟化したと分析した。氏は「良質な米国企業を罰することは望んでいないようだ」と述べ、内製志向の強い企業への関税的優遇が株式市場の反発を呼び込んだ可能性を示唆している。テスラのような国内製造基盤を持つ企業にとっては、こうした政策転換が業績回復と株価上昇の追い風になったと捉える余地がある。
また、同氏は「アメリカだけが公正な貿易をしている」と主張し、他国によるルール逸脱が米国の製造業空洞化を招いたと警鐘を鳴らした。ここには「アメリカ製」への価値の再評価という潮流も絡んでいる。仮に政権が“アメとムチ”による産業政策を徹底すれば、テスラのような国内生産を軸とした企業が再び脚光を浴びる局面が増えると考えられる。ただし、こうした展望は政権運営と市場の両バランスに大きく依存するため、過度な楽観は危うい。
CEOイーロン・マスク氏の発言と政治色が与える市場への影響
テスラのCEOであるイーロン・マスク氏は、過去数か月にわたり、その政治的発言が注目され続けている。特に彼の共和党寄りの姿勢や気候変動否定論への接近は、同社の製品に環境意識を重ねていた一部の消費者にとって、強い違和感や不信感を与えた可能性がある。クレイマー氏は、マスク氏が“ヘンリー・フォードのような人物”であると評しつつ、現状では「長短剣を向けられている状態だ」と述べ、強烈な賛否の渦中にある経営者像を示した。
本来、テスラ車の購買層には環境保護への関心が高い層が多かったが、マスク氏の政治的スタンスがその期待に反するものとなったことで、需要への影響を懸念する声が一部投資家から出ている。また、従業員向け説明会における自動運転関連の発言は市場に希望を与える一方で、その具体的な成果が示されない限り期待倒れとなるリスクも孕んでいる。企業価値と経営者のパーソナリティが密接に結びつくテスラにおいては、マスク氏の一挙手一投足が市場心理を大きく左右する構造は今後も続くだろう。
Source:yahoo finance