アジアの自動車関連株が二日連続で下落した。背景には、米国のドナルド・トランプ大統領が4月2日から発動する25%の輸入車関税がある。対象は米国外で製造された乗用車と軽トラック、エンジンやトランスミッションなどの主要部品に及ぶ。

トヨタやホンダは4%超下落し、日産や現代自動車も軒並み下げた。中国の新興EVメーカーNIOは香港市場で約8%の急落を記録した。関税により、米国内で販売される輸入車の価格は最大1万5000ドル上昇するとの見通しもあり、消費者負担の増大が懸念される。

また、EUやカナダが報復を示唆する中、長期化する貿易戦争への警戒感も市場を冷え込ませている。自動車業界にとって政治と経済の綱引きが新たなリスクとなっている。

トランプ政権の関税強化がもたらしたアジア自動車株の連鎖的下落

3月27日、トランプ米大統領が発表した自動車関税強化を受け、アジアの主要自動車メーカー各社の株価が軒並み下落した。トヨタ自動車とホンダはそれぞれ4.29%、4.24%の下落幅を記録し、マツダは3.99%、日産は1.63%の下落となった。韓国勢では、現代自動車が3.53%、KIAが2.66%の値下がりを見せ、中国のNIOは香港市場で7.83%という大幅な下落に見舞われた。

この動きは単なる一時的反応ではなく、国際市場における不確実性への警戒感が背景にある。関税の対象が完成車だけでなくエンジンやトランスミッションなどの基幹部品にまで及ぶことで、グローバルなサプライチェーン全体に波及する懸念が強まっている。多くの自動車メーカーは生産拠点を複数国に分散させており、たとえば日産やKIAはメキシコに大規模な工場を構えているが、こうした越境生産モデルが直接打撃を受ける構図となっている。

さらに、市場関係者の間では、トランプ政権の政策が予見性に欠け、報復措置の連鎖によって中長期的に貿易環境が不安定化することへの懸念が強まっている。今回の株安は単なる価格調整ではなく、地政学リスクと政策不透明性への根深い不信の現れとも捉えられる。

米国市場の価格高騰リスクとサプライチェーン分断の波紋

ゴールドマン・サックスのアナリスト、マーク・デラニーは、今回の25%関税により米国で販売される輸入車の価格が5,000~15,000ドル上昇する可能性があると分析した。また、国内生産の車両であっても最大8,000ドルのコスト上昇が見込まれており、米国市場における自動車価格の高騰は避けられない構図にある。

これは単にコストの転嫁に留まらず、販売台数の減少、ひいては需要そのものの収縮を引き起こしかねない。自動車業界は多層的な部品供給網に依存しており、特にエンジンやトランスミッションといった重要部品の多くは国外生産でまかなわれている。そのため、部品単位で関税を課す方針は、結果として完成車の組立効率や納期にも深刻な影響を及ぼすと考えられる。

加えて、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に基づく「非米国製部品への部分的な課税」方針も、現場レベルでの実務対応を複雑化させる。実際、商務省と税関国境警備局(CBP)が今後策定する計算方式によっては、一部メーカーは原産地証明や関税評価の手続きに多大なコストを要する恐れがある。企業のオペレーションや財務戦略にまで影響を及ぼす懸念は拭えない。

報復関税の連鎖と長期化する通商摩擦への警戒

ANZによれば、米国の自動車輸入の9割超はEU、カナダ、メキシコ、韓国、日本の5カ国・地域に集中している。今回の一方的な関税措置に対し、EUやカナダは対抗措置の意向を示しており、貿易摩擦の連鎖的拡大が視野に入りつつある。トランプ大統領はこれらの国々が連携した場合には「さらに大規模な関税を課す」と警告しており、米国の通商戦略が対立を深める方向に動いているのは明白だ。

このような応酬が続けば、報復合戦による関税障壁の積み上げが避けられず、自由貿易体制への信認も揺らぎかねない。自動車産業は国際協調と分業体制の上に成り立っており、貿易の制限は供給網の混乱だけでなく、投資の減退や技術提携の停滞といった副次的な影響をもたらす。

さらに、Eurasia Groupが指摘するように、関税の具体的な運用方法が未確定である点も懸念材料である。関税適用の境界線が曖昧なままでは、企業側にとってリスク評価が困難となり、今後の戦略立案に支障を来す可能性がある。国際貿易の安定を脅かす新たな火種として、この通商摩擦の行方には引き続き注視が必要である。

Source:CNBC