ドナルド・トランプ前大統領は、米国への自動車および部品の輸入に対し25%の関税を課すと発表した。これは1台あたり平均6,000ドルの価格上昇を招くとされ、既にインフレに苦しむ消費者心理の冷え込みを加速させる恐れがある。

国内メーカーが価格を引き上げやすくなることで、競争力の低下や販売減少が現実味を帯びており、Cox Automotiveの予測では米国内の生産台数が週2万台減少する可能性が指摘された。トランプ氏は国内回帰の起爆剤とする意図を持つが、企業の投資判断は不安定な政権運営やUSMCA違反の懸念から慎重姿勢が強まっており、政策効果は不透明との見方も根強い。

自動車価格の急騰と消費冷え込みの連鎖反応

トランプ前大統領が発表した25%の輸入関税は、米国市場に流通する自動車の約半数を占める輸入車の価格に直接的な影響を与える。業界専門家の試算では、1台あたり平均6,000ドル以上の値上がりが見込まれ、すでに高インフレに直面する米国の一般消費者にとっては、大きな購買抑制要因となることが予想される。

この価格上昇は輸入車のみならず、競争圧力の減少によって国内メーカーも価格を引き上げる余地を得る形となり、実質的に市場全体の価格上昇を引き起こす構図が見えている。これにより消費者心理は冷え込み、販売台数の減少と自動車業界全体の需要低下が現実のものとなる懸念が強まる。

さらにCox Automotiveのチーフエコノミストであるジョナサン・スモーク氏は、週あたり2万台の生産減少を見込むと発言しており、短期間で北米の供給体制が大きく混乱するリスクも指摘されている。短期的な景気刺激策としての効果を狙ったとしても、こうした副作用を軽視すれば、製造現場の停滞と雇用減に波及する可能性を否定できない。

生産回帰の期待と投資判断の温度差

トランプ氏と全米自動車労組(UAW)は、今回の関税が国内製造の復活を後押しすると強調している。特にUAWのショーン・フェイン会長は「数千の高賃金の製造職が数カ月内に戻ってくる」と期待を寄せた。だが、実際の投資判断においては、企業経営層の懸念が色濃く存在している。

トランプ政権は過去2カ月間で関税方針を複数回変更し、そのたびに市場や経済界に混乱を招いた。これにより企業側は将来の政策の予測可能性を失い、数十億ドル規模の新工場建設といった長期的投資に対しては極めて慎重な姿勢を崩していない。関税が市場に与える構造的影響以上に、政治的な不安定さこそが生産回帰の最大の障害となっている。

また、トランプ政権が課した今回の関税は、カナダ・メキシコと締結した米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)にも抵触する可能性があり、これが貿易協定全体の信頼性にも影を落としている。対外信頼の低下は、単に条約違反という問題にとどまらず、グローバル企業の米国離れを招く引き金となりかねない。

北米自動車産業の均衡を崩す構造的リスク

カナダ商工会議所は今回の関税について、「何万という雇用を米加両国で失い、北米の自動車産業リーダーシップを喪失させる」との声明を発表した。現状、GMやステランティス(旧クライスラー)はメキシコで電気自動車やピックアップトラックを製造しており、北米内での生産分散は産業構造の一部として確立されている。

このような複雑なサプライチェーンが存在する中で、特定国からの輸入に高率関税を課すことは、部品供給や完成車輸送に多大な支障をきたす恐れがある。とくに「中間財」の供給遅延は、生産ライン全体の停止につながり、結果的に国内工場の稼働率も低下するリスクを含んでいる。

自由貿易体制を土台とする北米市場においては、急進的な保護主義政策が逆効果をもたらす可能性が高く、地域全体の産業競争力を損なう構図も想定される。政治的意図を優先した政策がもたらす地経学的な歪みは、一時的な話題性を超えて長期的な損失へと転化する危険性を孕んでいる。

Source:theguardian