Apple TV+で2025年3月26日に配信が始まった全10話の新作ドラマ「The Studio」は、全編ワンカット撮影という異例の手法で注目を集めている。主演・製作を務めるセス・ローゲンは、ハリウッドを舞台に映画制作の裏側を描くこの作品で、Appleからの制作ノート(修正指示)を回避することに成功したと明かした。
10分超の長回しによる演出は、即興中心だった従来のローゲン作品とは一線を画し、LAの風景やスタジオ内部をシームレスに繋ぐ映像体験を実現。Sony時代の経験を基にした本作は、ザック・エフロンやゾーイ・クラヴィッツのカメオ出演も話題で、技術面・演出面ともにローゲンのキャリア屈指の挑戦作となっている。
全編ワンカットがもたらした緊張感と自由 「The Studio」の映像的挑戦

「The Studio」は10話すべてがワンカットで構成されており、1シーンあたり10分以上という大胆な演出が貫かれている。撮影現場、会議室、パーティー会場、ロサンゼルスの丘陵を走るクラシックカーまで、舞台が滑らかにつながり、映像の切れ目が存在しない。ザック・エフロンやゾーイ・クラヴィッツといった豪華なカメオ出演も一連の流れの中で自然に登場し、物語に厚みを加えている。
この手法によって視聴者は常に登場人物と同じ空気を吸っているかのような没入感を得られ、カメラが止まらないことが緊張感とリアリティを生み出している。従来のセス・ローゲン作品では、即興と複数カメラで撮った素材を編集によって整えていたが、本作では逆に「編集できない」ことが制作者の覚悟を映像に刻み込む結果となった。
テクノロジーの進化により、こうした長回しの撮影が技術的に可能となったことも背景にある。だが、それを採用するか否かは別問題だ。あえて困難な道を選んだ「The Studio」は、映像表現における限界突破への意志を示している。
Appleのノートをかわす戦略的撮影法 制作側が握った主導権
セス・ローゲンは「The Studio」の制作において、Appleからのノート(修正指示)をほぼ完全に回避したと明言している。これは一見すると冗談のように聞こえるが、ワンカット撮影という手法を用いることで実現した戦略的選択である。撮影後の編集が事実上不可能となるため、Apple側からの「このセリフを削ってほしい」「この展開を変えてほしい」といった要望に対して、「不可能です」と即答できる状況が生まれた。
これは単なる偶然ではなく、過去に「The Interview」でサイバー攻撃を招いたローゲンが、自らの創作の自由を守る術を確立した結果といえる。スタジオ側が主導権を握る構造は映像業界では稀であり、「The Studio」はその先例となりうる可能性を秘めている。ただし、これは作品のクオリティが前提であり、視聴者を納得させる内容でなければ逆に責任も大きくなる。
一方で、Appleのようなプラットフォームがクリエイターの試みにどこまで介入すべきかという問いも浮かぶ。ワンカットという形式がフィードバックの余地を封じたことで、制作側が純粋なビジョンを最後まで貫いた本作は、今後のコンテンツ制作の在り方にも一石を投じている。
Source:MacDailyNews