Microsoftは、Windows 11の最新ベータ版(ビルド26120.3653/KB5053658)において、インターネット接続およびMicrosoftアカウント必須要件を回避するスクリプト「BYPASSNRO」の削除を盛り込んだ。これにより、将来的にはすべてのユーザーがセットアップ時にオンライン接続とMSアカウントの使用を強制される可能性が高まった。

加えて、起動障害時の自動復旧を支援する「クイックマシンリカバリ」や、視覚障害者向けのナレーター機能強化など、回復性とアクセシビリティに関する複数の新機能も段階的に導入されている。Copilotの操作性改善、共有機能の進化なども含め、今ビルドはWindowsの利用環境を根底から見直す布石といえる。

IT管理者にとっては展開・検証の準備が急務となる一方、個人ユーザーも今後の正式リリースで体験する変化の行方に目を向ける必要がある。

BYPASSNRO削除が示すMicrosoftのインストールポリシー強化

MicrosoftがWindows 11ビルド26120.3653(KB5053658)で予告なしに「bypassnro.cmd」スクリプトを削除した事実は、セットアップ時のインターネット接続およびMicrosoftアカウント(MSA)使用の義務化を強める方針の一端を示している。このスクリプトは、従来ユーザーがローカルアカウントによるオフライン初期設定を可能にする抜け道として利用されてきたが、その選択肢が事実上排除されることとなった。

Microsoftは過去数年にわたり、クラウド連携やWindows Hello、デバイス間同期などの機能を中核とするOS環境を推進してきた。MSAによる一元管理はその根幹であり、スクリプト削除はこうした設計思想に沿った整合的措置といえる。ただし、教育機関や業務用端末などにおいてオフライン環境での導入を求める需要は依然として根強く、あらゆるユーザーにとってこの方針が歓迎されるとは限らない。

今後の正式リリースでこの仕様が固定化されれば、企業の導入設計にも影響を及ぼす可能性がある。管理部門は今のうちに代替手段やデプロイ手順の再構築に備えるべき局面に差しかかっている。

クイックマシンリカバリとWindows回復戦略の再定義

ビルド26120.3653では、起動障害時にWindows回復環境(WinRE)を通じて自動修復を試みる「クイックマシンリカバリ(QMR)」が搭載された。これは、2024年のIgniteカンファレンスで発表された「Windows Resiliency Initiative」の一部として導入されたものであり、OSの安定稼働を支える中核機能の一つとなる見通しである。

このQMRでは、深刻なブートエラーが発生した際にデバイスがWinREに移行し、Microsoftに送信された診断データをもとにWindows Update経由で修正パッチが提供される。特筆すべきは、IT管理者がこの機能を検証・カスタマイズできる点であり、商用環境における運用柔軟性を確保している。一方でホームユーザーは原則この機能が自動的に有効化され、手動操作による回避は困難とされる。

この設計は、従来のユーザー主導型リカバリからクラウド依存型の管理モデルへと大きく舵を切るものである。更新系統を集約し、障害復旧を標準化する狙いは明確だが、通信障害時の対応やオフライン環境での限界など、運用上の制約が並走することも否定できない。

アクセシビリティ強化とCopilot機能の統合的進化

Narratorに新たに実装された「スピーチリキャップ」は、視覚障害を持つユーザーの利便性を飛躍的に向上させる。Narratorキー + Alt + Xによって500件の発話履歴が確認可能となり、Ctrlキーの組み合わせによって直近の読み上げ内容をクリップボードへコピーできる機能は、教育現場や情報取得の正確性を求める職場環境においても価値を発揮する。

また、Copilot関連では、Win + Cでの迅速な起動、長押しによる会話機能、さらにCopilotキーの状態変化を検出するAPIの提供など、ユーザーインターフェースの洗練が進んでいる。特に「Click to Do」はCopilot+ PCに限定されたプレビュー機能であるが、英語に加えスペイン語・フランス語対応も含まれており、商用多言語環境への配慮も感じられる。

一連のアクセシビリティ・支援系機能は、単なる個別強化にとどまらず、Windows OSをあらゆるユーザー層にとって「使える」プラットフォームへと進化させようとする意思の表れと見られる。その背後には、アクセシビリティを企業競争力や法的遵守の要素として位置づける潮流があることも忘れてはならない。

Source:Neowin