ドナルド・トランプ前大統領が製薬業界への関税導入を示唆したことで、投資家の間で警戒感が広がっている。3月28日の発表では詳細な税率や時期は示されなかったが、市場では既にボラティリティが上昇しており、自動車への25%関税発表直後の動きと重なって不確実性が増している。

この状況下で注目されるのが、製造基盤を米国内に有するファイザー(NYSE: PFE)とイーライリリー(NYSE: LLY)である。両社は輸入依存度が低く、関税影響を最小限に抑える体制を構築済みとされており、財務指標や成長戦略の面でも堅調な姿勢を維持している。

ウォール街の評価もこれを裏付けており、今後12ヶ月で20%以上の株価上昇余地が見込まれるとの予測もある。トランプ氏の関税方針が現実となった場合、医療株の中でも両社は相対的な安全資産としての存在感を高める可能性がある。

ファイザーの国内製造体制と割安なバリュエーションが示す防衛力

ファイザー(NYSE: PFE)はアメリカ国内に広範な製造拠点を展開しており、トランプ前大統領が唱える「製薬の国内回帰」路線との親和性が高い。中国などからの輸入に依存する競合他社と異なり、関税の影響を受けにくい構造が整っていることは大きな強みである。さらに、2025年の収益見通しは610億~640億ドルと、前年度の636億ドルからの大幅な変動は見込まれておらず、安定した業績が期待されている。

PER(株価収益率)は9未満と、業界平均の18を大きく下回っており、割安感が際立つ。配当利回りは6.7%に達し、S&P500の1.4%を大きく上回る水準にある。こうした数値は、トランプ政権再登場による政策リスクが市場を揺さぶる中でも、同社が一定の資金逃避先として注目を集める背景と一致する。

ただし、特許切れによる収益性の圧迫は依然として懸念材料であり、今後の収益構造には戦略的な新薬開発やM&Aによる補完が不可欠である。Seagen社の430億ドル買収による200億ドル超の追加収益確保が一例だが、こうした動きが持続的な成長の鍵を握るといえる。

イーライリリーの肥満薬戦略と500億ドル超の国内投資が生む競争優位

イーライリリー(NYSE: LLY)はノースカロライナ州における20億ドルの施設拡張を含む、米国内での巨額投資により、サプライチェーンの強靭化を図っている。同社は肥満治療薬「Zepbound」および糖尿病治療薬「Mounjaro」の需要急増に対応し、2024年にはこれら2製品だけで165億ドルの収益を計上した。これは売上全体の36%に相当し、パイプラインの中核をなしている。

調達面でも、関税の影響を受けにくい地域からの成分確保を徹底しており、仮に製薬関税が導入された場合でも、コスト構造の安定性が見込まれる。さらに、2025年以降に向けては500億ドル超の投資を通じて生産能力を一段と拡張する計画を掲げており、国際市場での供給対応力を高めている。

ただし、トランプ氏が「命を救う薬」を関税対象から除外する可能性に含みを持たせたことは、逆に言えば政策判断次第で恩恵が大きく変動し得るという不透明さもはらむ。医療需要が高まるなかで、技術力と供給網を同時に強化するイーライリリーの姿勢は、市場における中長期的な信頼性を高める要因となり得るが、政治的動向が引き続き影響を及ぼす可能性も否定できない。

Source:Finbold