Amazon Web Services(AWS)が、自社開発のAIチップ「Trainium」の採用をクラウド顧客に強く働きかけている。報道によれば、少なくとも1社に対し、Nvidia製GPU「H100」と同等の性能を25%低いコストで実現できるとし、Trainium搭載サーバーへの移行を提案したという。
この動きは、NvidiaがGTC 2025で最新のAI向けスーパーコンピューターを披露する中で行われたもので、注目が集まっている。AI需要の急増によりNvidia製品の供給遅延や価格高騰が続く中、AWSは「アクセスのしやすさ」を武器に自社シリコンの普及を進めようとしている。
ただし、CUDAベースで構築された既存環境との互換性の問題や、AWS特有のアーキテクチャへの依存リスクといった障壁もあり、すべての顧客が容易に移行できるとは限らない。
Trainiumは本当にNvidia H100の代替となるのか

AWSが提案しているTrainiumチップは、機械学習モデルのトレーニング向けに開発された自社製シリコンであり、NvidiaのH100 GPUに対して性能面で並ぶ可能性があるとされる。The Informationの報道によると、少なくとも1社に対して、H100と同等の性能を25%低いコストで提供できるとAWSが説明したという。Trainiumは、既にAWS内で提供されているGravitonやInferentiaと同様に、用途を限定した最適化設計がなされている。
注目すべきは、GTC 2025でNvidiaが最新のDGX SparkやDGX Station AIといった高性能なAIスーパーコンピューターを発表したタイミングで、Amazonがこの攻勢に出ている点である。AWSは単なる技術比較ではなく、クラウド環境における実効的な選択肢としてTrainiumを位置づけている。高騰するNvidia GPUの価格と入手困難さが背景にあり、すぐに試せる、すぐに使えるというAWSの姿勢は、限られたGPUリソースに悩む多くの開発者や研究者にとって魅力的に映る。
一方で、H100のような汎用性と実績を持つGPUと比べた際、Trainiumの導入には慎重さも求められる。パフォーマンスが条件付きで同等であったとしても、安定性や互換性、対応する開発ツールの成熟度では、まだ差がある可能性が拭えない。現時点でTrainiumがH100の完全な代替になると断言するのは難しく、利用用途やニーズに応じた見極めが不可欠である。
CUDA環境からの移行に潜むコストとAWS専用チップの課題
AWSのTrainiumは、性能やコストの面で魅力的に映る一方で、長年NvidiaのCUDAプラットフォーム上で構築してきたAI開発環境にとっては、簡単に切り替えられるものではない。NetworkWorldも指摘するように、CUDAで最適化された既存コードやワークフローをTrainiumに移行するためには、再設計や再学習が必要となり、実装負担が少なくない。また、TrainiumはAWSのクラウド上でしか利用できないため、他のクラウドやオンプレミス環境への持ち出しが不可能という制約も存在する。
この「ベンダーロックイン」は、特定のプラットフォームに依存した開発構造を作り出す要因となる。短期的にはコスト削減につながっても、将来的に他の選択肢に移行する際の柔軟性を損なうリスクがある。特にマルチクラウド環境や、将来的なオンプレミス回帰を視野に入れている開発者にとっては、この制限が大きな壁となる。
さらに、Trainium専用の開発環境「NeurIPS」や専用ライブラリの習得も必要となる。NvidiaのCUDAやcuDNNと比較してエコシステムがどれだけ成熟しているかは不透明であり、初期段階での学習コストも見過ごせない。AWSが掲げる25%のコスト削減が、学習や移行、将来的な柔軟性喪失を差し引いても十分なメリットといえるかは、個々の開発規模や運用方針によって大きく異なるといえる。
Source:TechRadar