Appleが開発中の「Project Mulberry」は、AIによる健康アドバイス機能を中心とした新たなヘルスケア戦略の中核を担うプロジェクトである。運動、食事、睡眠といった日常の健康習慣に対して、医師の知見を反映したAIが個別に助言を行う構想が浮上した。

2025年春から夏に登場が予想されるiOS 19.4にて正式搭載される可能性があり、既存のHealthアプリに食事記録機能を強化した形で統合される見込みだ。AppleはこれによりMyFitnessPalやNoomといった既存アプリと競合する姿勢を明確にしている。

Bloombergの報道によれば、社内外の専門家を巻き込んだ映像制作やAIのトレーニングが進められており、同社の健康事業における過去最大級の取り組みとして注目されている。

Project Mulberryが示すAppleの次なるヘルスケア戦略

Appleが取り組む「Project Mulberry」は、単なる健康アプリの進化ではなく、医師の知識を模倣したAIによるパーソナライズされた健康支援の実現を目指す包括的な構想である。Bloombergの報道によれば、このプロジェクトは以前の「Project Quartz」の延長線上にあり、食生活、運動、睡眠といった日常的な行動をベースに、Healthアプリに蓄積されたユーザーデータをAIが分析。

そこから各個人に最適化されたアドバイスを提供するという設計がなされている。リリースは2025年春から夏に予定されているiOS 19.4アップデートと同時期とされ、Apple Watchなどの既存デバイスとの連携も視野に入っている点は注目に値する。また、社内の医師から得た知見をもとにAIの学習を進めており、今後は外部の専門医と連携した教育用ビデオ制作も計画されている。

睡眠や栄養、メンタルヘルスといった領域を網羅する形で、健康改善の主導権をテクノロジーが担うという構図が浮かび上がる。この一連の動きは、Appleがもはやデバイスメーカーの枠を超え、健康インフラの構築者としての地位を模索していることを示唆している。特許紛争などの障壁を乗り越えて、より深く医療領域に踏み込む布石とも捉えられる。

AIと医師の協働がもたらすヘルスケアの再構築

Appleのアプローチにおいて特筆すべきは、医師の知見をAIに取り込むことで、従来の診断支援を超えた健康管理体験の提供を狙っている点である。AIコーチは、ユーザーの生活習慣をもとにした個別提案を行うだけでなく、将来的には医療行為に近い領域への展開も視野に入っている可能性がある。

ただし、現時点では医療機関の代替ではなく、予防医療や生活改善を目的とした補助的な位置付けに留まっている。注目されるのは、食事記録の強化というこれまでAppleが手を出さなかった分野に進出する姿勢である。MyFitnessPalやNoomなど、栄養管理に強みを持つ競合との市場競争は激化が予想されるが、Appleの強みはiOSエコシステムとの統合性にある。

ユーザーはiPhoneやApple Watchを通じて得られる身体データを、煩雑な操作を要することなく一元的に扱えるため、UXの優位性は大きい。一方で、医療技術企業Masimoとの特許紛争によって血中酸素センサー機能が削除されたように、Appleの医療領域進出には法的・技術的な制約もつきまとう。

したがって、今後の展開においてはAI技術の高度化のみならず、医療関連の規制や専門機関との協調体制の構築が不可欠となる。テクノロジーと医学の境界が曖昧になる時代に、Appleがどのようなバランスを取っていくのかが問われる局面である。

Source:PYMNTS