AMDのRyzen 9 9950X3Dを対象に、RedditユーザーのUserBhossが家庭用アイロンと釣り糸を用いてIHS(統合ヒートスプレッダ)を取り外す“デリッド”を実施し、冷却性能の大幅な改善と5,942MHzへの高クロック動作を実現したと報告した。

同チップの理論最大値に迫る周波数に達しつつ、Furmark負荷時でも72℃を維持。特注の水冷環境下とはいえ、一般的なヒートスプレッダの厚みが冷却効率のボトルネックとなっている可能性を示唆している。

この手法はFire Strikeベンチマークでも上位スコアを記録するなど一定の成果を見せたが、作業リスクやシステムの不安定化を伴うため、実施には極めて慎重な判断が求められる。

釣り糸とアイロンで実現した“非正規デリッド”の実態と冷却性能の向上

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Redditユーザー「UserBhoss」が行ったRyzen 9 9950X3DのIHS除去は、従来の専用ツールを用いずに一般家庭にある釣り糸とアイロンで実施された点が大きな注目を集めている。Socket AM5に採用される厚いIHS構造を物理的に取り除くことで、直接冷却の熱伝導性を高め、実際に5,942MHzという高クロック動作を安定して維持するに至った。

これは同CPUの理論的最大周波数とされる5,950MHzに極めて近い水準であり、ベンチマーク用途における冷却性能の制限が明確に浮き彫りとなる結果であった。

また、Furmarkによる負荷試験中でも72℃という比較的低温を保っていた点は、冷却効率の向上が一過性のものでなく、一定の安定性を持つことを示唆している。冷却システムにはカスタム水冷を用いており、一般的なユーザーが同様の結果を得ることは困難だが、IHSによる熱拡散の逆効果が顕在化するケースとして興味深い事例である。

ただし、この“非正規”なデリッド手法は、極めて高いリスクを伴う。シリコンダイは結晶構造ゆえに脆く、物理的な衝撃や熱のかけ方を誤れば容易に破損する。さらに、インジウムはんだを用いた接合を破壊する工程には慎重な温度管理が不可欠であり、誤ればチップそのものを台無しにしかねない。成果の裏にある実行リスクの高さこそが、本件の本質といえる。

高クロック動作とベンチマークスコアが示すオーバークロックの限界と可能性

UserBhossによる改造後のRyzen 9 9950X3Dは、3DMark Fire Strikeにおいて物理スコア51,631を記録しており、既存の同型CPUの上位水準に並ぶ結果を叩き出した。ただし、データベース上で最も高いスコアには約2,200ポイント及ばず、性能の限界を突破したとは言い難い。

とはいえ、IHSを外した上で5.9GHz超のクロックを維持した結果としては十分に注目に値する。加えて、ベースクロックの微調整なしにこの水準に到達した点は、標準構成における冷却性能の制約を明確に示す材料となる。

一方で、5,950MHz以上を目指すにはベースクロック調整が不可避とされ、これが他のパーツに波及的な不安定化を引き起こすリスクを伴う。

高価なマザーボードやVRMの堅牢性、冷却能力の確保といった多層的な装備がなければ、安定した動作を保つことは困難である。言い換えれば、現在のオーバークロック環境においては、CPU単体のポテンシャルだけでなく、周辺設計全体の最適化が問われるフェーズに入っている。

また、クロック向上による体感速度の変化が限定的であることから、多くの利用者にとってはメモリやストレージのチューニングの方が現実的な手段となる。オーバークロックはもはや一部の競技的・実験的領域にとどまりつつあり、全体としてのシステムバランスが改めて重視される状況にある。

Source:HotHardware