トランプ前大統領が進める大規模関税政策が、景気後退リスクの高まりや物価上昇を招く中、米製造業再興という「大義」が現実味を帯びるかが問われている。25%の輸入車関税や中国製品への追加関税により一部大手企業は米国内回帰を発表する一方、経済学者らは、既存のサプライチェーンの分断と人材不足が大きな障壁になると警鐘を鳴らす。
かつての鉄鋼業界の例でも関税によって雇用創出が限定的だったことが示され、総体としてはコスト増による雇用減が上回ったとの研究結果もある。政策の継続性が不透明な中、製造拠点の再配置を決断する企業は依然少なく、国内産業の「復活」は容易ならざる現実と向き合っている。
関税で生まれた製造業の変化と限界

トランプ氏による25%の鉄鋼・アルミニウム関税や、中国・カナダ・メキシコからの輸入品への課税措置により、アップルやホンダ、ヒュンダイといった大企業が米国内に工場を設ける動きが相次いでいる。ホンダは次期型シビック・ハイブリッドをインディアナで製造予定とし、アップルはAIサーバーの国内生産と2万人の雇用創出を明言した。2021年には米国鉄鋼業界が総額157億ドルの投資を発表し、3,200人の新規雇用が見込まれたとの報告もある。
だが、これらの動きが米国の製造業復権を本格的に支えるかは疑問が残る。関税の効果で保護された産業が一部にとどまる一方、鉄鋼や自動車部品などを使う下流産業ではコスト増により7万5,000人分の雇用が失われたという研究結果もある。連邦準備制度理事会による試算では、関税で工場雇用は0.4%増加したが、それ以上に価格上昇の打撃で2%の雇用減を招いた。政策の副作用が拡大すれば、結果的に製造業の国内回帰は一時的な動きにとどまる可能性が高い。
長期的視点を欠いた企業のジレンマ
トランプ氏は「アメリカを再び豊かにする」ための手段として関税政策を強調しているが、その一方で他国が課税を引き下げれば関税を解除するとも語っており、企業にとっては方針の一貫性に大きな疑念が残る。ゼネラル・モーターズのCFOポール・ジェイコブソン氏も「数十億ドルを投じた後に政策が終了するなら企業活動は振り回される」と警告し、恒久的な体制変更に踏み切る決断をためらう企業が少なくないことを示唆している。
自動車や家具など多くの業界では、海外から部品供給を受ける構造が定着しており、国内移管のハードルは極めて高い。家具業界では、仮に組み立て拠点を米国に移しても、木材・ガラス・ヒンジといった部品の多くはアジア製であり、完全な自給体制は困難だとされる。加えて、米国の失業率は4%台と低く、熟練労働者の確保が最大の障害となる。短期的な刺激策ではなく、持続的かつ予見可能な制度設計がなければ、製造業の本格的な国内回帰は現実とはならない。
Source:usatoday