マイクロソフトの最高技術責任者ケビン・スコット氏は、2030年までにソフトウェアコードの95%が人工知能によって生成されると予測した。これは開発者の終焉ではなく、プロンプトによる指示を通じた新たな開発手法への移行を意味すると強調する。
彼はAIが繰り返し作業を担い、人間は設計や問題解決に集中する未来像を示したが、現時点ではAIの記憶力や文脈理解には限界があると認めた。そのうえで、1年以内に記憶機能が飛躍的に進化するとの見通しを語る。
IBMやAnthropicなど他のテックリーダーもこの分野で異なる見解を持ち、Salesforceは2025年に従来型エンジニアの採用を終了する可能性を示唆。AI主導の開発体制が既存の雇用観にも影響を及ぼし始めている。
コーディングの主役はAIへ プロンプト操作が新たな技術基盤に

マイクロソフトCTOケビン・スコット氏が示した「2030年にコードの95%がAIによって生成される」という見通しは、単なる効率化にとどまらず、ソフトウェア開発そのものの構造転換を意味する。
従来、開発者は膨大な仕様とロジックを一行ずつ実装する作業に追われてきたが、今後はAIがその多くを担い、開発者は目的を言語化する「プロンプト設計者」へと役割を移す。この移行は「入力マスターからプロンプトマスターへ」という言葉に象徴され、コードを書く行為自体が間接的な操作へと変容していく。
スコット氏は、AIが人間の役割を代替するのではなく補完するものであると強調する。単なる置き換えではなく、設計、意思決定、品質管理など、より高度な知的作業に人間の集中を促すという構想である。
開発現場では、AIとの協働を前提とした設計プロセスやレビュー体制の再構築が不可避となる。また、プログラミング教育においても、構文の理解から思考力や表現力重視への転換が求められ、スキルセットの再定義が始まっている。
技術的制約と進化の見通し 「記憶」をめぐるAIの課題と期待
スコット氏は現行のAIに関し、取引的な応答にとどまり、文脈や履歴を活用する能力が不十分である点を指摘している。とりわけ「記憶力」の欠如は、長期的なプロジェクト管理や個別最適化といった領域において深刻な制限となる。
現段階では、プロンプトごとに状況を説明し直す必要があり、生産性と一貫性に課題が残る。この制限は、AIがコード生成の大部分を担う未来像の実現において、現実的なボトルネックの一つといえる。
ただし、スコット氏は「今後1年で記憶機能は飛躍的に改善される」との見通しを示す。仮に文脈保持やユーザー習熟度の反映が可能となれば、AIは単なる補助ツールから継続的パートナーへと進化する可能性がある。
この展開が実現すれば、AIエージェントは開発者の意図をより深く理解し、細かな文法や仕様の変化にも適応する能力を持つようになる。その結果、複雑なシステム開発や長期保守における負担が軽減され、ソフトウェア開発のフローそのものが再定義されることとなろう。
Source:TechSpot