Appleが空間コンピューティングの未来を託すApple Vision Proは、発売から1年以上を経ても市場での存在感を確立できていない。主因は、visionOSの不安定なアプリ動作、短命なバッテリーと発熱問題、macOSアプリとの非互換性、UIの精度不足にある。
加えて、開発者向けの制限が厳しく、ユーザー体験を向上させる革新的なアプリの登場が妨げられている。3,500ドルという価格に見合う価値をユーザーに提供するには、visionOS 3による抜本的な改善が不可欠だ。Apple Siliconの潜在力を活かし、Mac依存から脱却した自立型空間デバイスへ進化できるかが、AVPの大衆化の行方を左右する重要な分岐点となる。
安定性とUI精度の欠如が実用性を阻む主因

Apple Vision Proにおける最大の障壁は、visionOSに起因するアプリケーションの不安定性とユーザーインターフェースの精度の低さである。Redditなどのユーザーコミュニティでは、Safariや内蔵の生産性アプリですら頻繁にクラッシュするとの報告が相次いでいる。
メモリ管理の不整合やウィンドウの操作反応の遅延が、マルチタスク環境で致命的な混乱を招いている。これにより、日常業務のなかでヘッドセットを用いた作業の継続性が保てず、AVPがもたらすとされた没入型体験の価値が著しく損なわれている。
さらに、手や視線による操作精度にも問題が残る。ウィンドウのドラッグや小さなボタンの選択が一度で認識されず、入力の再試行を強いられる状況が恒常的に発生している。これは2Dインターフェースでは許容される範囲かもしれないが、3D空間内の作業環境においては著しいストレス源となる。
精緻なUIトラッキングの実現と、従来型のポインターやキーボードショートカットといった代替手段の整備がなければ、AVPは実用の域に達しないままである。
バッテリーと熱処理の限界が業務利用を阻害
Apple Vision Proは、パフォーマンスの高さと引き換えに、バッテリー持続時間と熱処理性能において深刻な課題を抱えている。とりわけMacバーチャルディスプレイ機能や動画編集といった高負荷タスクを実行した際には、本体が発熱しやすく、外部バッテリーも2時間程度で限界に達する。
この特性は、移動中や電源のない場所での作業における連続使用を著しく制限し、日常的な業務環境での活用を困難にしている。Apple Watchの登場時にも似た課題が指摘されたが、Vision Proは「体験型ガジェット」ではなく、生産性を支えるツールとしての側面を担っている。
ゆえに、発熱とバッテリー問題の改善は、単なる品質向上にとどまらず、使用目的そのものの再定義に直結する。仮にvisionOS 3で電力効率の大幅な最適化と熱制御の高度化が実現されれば、AVPは初めて長時間稼働が求められる業務用途にも耐えうる道具となる。現行仕様のままでは、実用ではなく展示会用のデモ機にすぎない。
macOSアプリとの統合欠如が専門ユーザーを遠ざける
Apple Vision ProはMacのディスプレイを仮想的に拡張する機能を備えるが、Final Cut ProやLogic Pro、XcodeといったmacOSネイティブアプリの実行は依然として不可能である。これはAVPをMacの代替あるいは補完とするには致命的な制約であり、プロフェッショナルなクリエイターや開発者にとっては大きな導入障壁となる。
Apple Siliconはすでに仮想化やクロスプラットフォーム動作に耐える処理能力を持っているにもかかわらず、その可能性がvisionOSで発揮されていない。CatalystやSwiftUIによるアプリ共有、仮想マシン技術などを用いれば、macOSアプリを空間環境で操作する未来は技術的に射程圏内にあるはずだ。
それにもかかわらず、現状ではAVPは「ただの高価なセカンドスクリーン」に過ぎず、作業環境の拡張ではなく体験の一部として位置付けられている。もしvisionOS 3でmacOSアプリの部分的でも直接的な統合が実現すれば、AVPは空間コンピューティングの概念を一段階押し上げる転換点となる。今のままではプロ用途への浸透は望めない。
Source:The Mac Observer