Microsoftの元UIデザイナー、ハロルド・ゴメス氏が語ったところによれば、Windows 8で採用されたMetro UIは、ユーザーからの要望だけでは決して誕生しなかったという。同社は顧客フィードバックよりもデザイナーの直感を重視し、タイポグラフィやモーションデザインを軸に新たなビジュアル体験を打ち出した。
当時は「iPhone的体験」が全盛で、顧客の声だけを拾っていては時代の先を行くUIは作れなかったと語る。しかしその挑戦の結果、スタートボタン廃止などが大きな反発を招き、最終的にはWindows 8.1での修正を余儀なくされた。
Microsoft創立50周年の節目に語られたこのエピソードは、テクノロジー企業にとって“革新”と“共感”のバランスがいかに難しいかを改めて浮き彫りにしている。
ユーザー不在で生まれたMetro UIの背景

Microsoftの元UIデザイナー、ハロルド・ゴメス氏によれば、Windows 8に搭載されたMetro UIは、当時のユーザーからの要望には全く存在しなかったデザインであるという。つまり、このビジュアルスタイルはユーザーニーズを起点としたものではなく、デザインチームの直感と理想が主導した結果生まれた。ゴメス氏は、情報設計やモーションデザインといったビジュアル要素を「OSの中核機能」に取り入れるという挑戦を通じて、Windowsを単なる操作ツールから「体験の場」へと進化させたかったと語っている。
その背景には、当時のスマートフォン市場の主流がiPhoneにあったという状況がある。ゴメス氏は、あの時代の顧客は「iPhoneの世界」に没入しており、WindowsのようなデスクトップOSにスマホライクな操作性を求めていなかったと述べている。ゆえに、従来のアンケートやユーザーテストでは決して導き出されない方向性を選ばなければ、革新的な変化は起こせなかったという見方がある。
ただしこの試みは、最終的にはユーザーからの反発を招いた。「スタートボタンの削除」は象徴的な失策として語られ、Windows 8.1での機能復活はその判断の妥当性を物語っている。ユーザー不在のイノベーションが、必ずしも歓迎されるとは限らないという現実が浮き彫りになった。
変革と混乱が交錯したWindows 8の教訓
Windows 8は大胆なUI刷新によって話題を呼んだが、その反動は大きかった。Metroデザインは、タイポグラフィやグリッドレイアウト、アニメーションなどを統合した一体型のビジュアル設計として評価された一方で、長年親しまれてきたスタートメニューの削除は多くの混乱を招いた。この決定は、日常的にPCを利用する人々にとって、極めて実用性を欠いた変更として受け止められた。
Microsoftは後にWindows 8.1でスタートボタンを復活させる形で軌道修正を行ったが、それは同社がユーザーの実際の行動と感覚を過小評価していたことを示している。直感に頼った開発が、必ずしも使いやすさと一致するとは限らず、技術的な完成度と実際の満足度の間には、決して小さくないギャップが存在していた。
この出来事が象徴しているのは、革新を追求するがゆえに、長年の使用体験が持つ“慣れ”や“安心感”を軽視した場合に、逆効果になる可能性があるという点だ。いくら新しい操作体系を提示しても、それが既存の利用習慣にあまりにもそぐわないものであれば、逆に受け入れられにくくなる。ユーザーインターフェースにおいては、“新しさ”と“親しみ”のバランスが問われ続ける。
Source:Neowin