中国EV大手BYDが2025年初頭に海外販売で好調な滑り出しを見せ、株価も年初来43%上昇と際立つ成績を記録した。しかし、トランプ前大統領が再導入した25%の輸入関税により、同社の北米進出戦略が暗転しつつある。メキシコにおける製造拠点の設立計画は現在保留されており、米中メキシコ三国間の緊張が背景にあるとされる。
一方で、BYDは欧州へのシフトを加速。ハンガリーとトルコに加え、第三の欧州工場も検討中とされ、長期的な成長軸をアジア外市場に再構築しつつある。短期的なリスクは残るが、同社の垂直統合モデルと電池技術は依然として競争優位を維持している。
トランプ関税がBYDのメキシコ戦略に与えた即時的打撃

BYDが北米初の製造拠点として計画していたメキシコ工場は、6億ドル規模で最大1万人の雇用を見込んでいたが、トランプ前大統領による25%の輸入関税発効(2025年4月2日)を受け、現在は保留状態にある。米国との摩擦を懸念したメキシコ政府の慎重姿勢も影響しており、大統領クラウディア・シェインバウムはアメリカとの貿易関係維持を優先しているとされる。また中国政府も、先進技術の流出リスクを理由にBYDへの承認を遅らせていると報じられている。
こうした複合的な政治要因が、BYDの北米展開に現実的な足かせとなっていることは否定できない。米中対立の余波がメキシコに及んだ結果、従来なら成長加速の拠点となるはずだった地域が、一転してリスク地帯となった。これは地政学が企業戦略に直接作用する典型であり、今後の海外進出においても政治リスクの事前分析が不可欠であることを示唆している。
欧州市場への積極展開で国際戦略を再構築するBYD
BYDは北米での停滞をものともせず、欧州に軸足を移す構えを見せている。同社はすでにハンガリーとトルコで2つの工場建設を進行中であり、今後2年以内には欧州で3つ目の製造拠点を設ける計画も検討段階に入ったとされる。欧州は中国車に対する政策障壁が比較的少なく、BYDのような新エネルギー車メーカーにとっては成長の余地が大きい地域である。規制と需要が共存する市場環境は、同社の電池製造技術や垂直統合モデルとの親和性も高い。
EV分野において電池技術は最重要資産といえるが、BYDはここにおいて明確な競争優位を持つ。米市場での出遅れが逆に欧州や新興国市場へのリソース集中を促し、結果的にグローバルポートフォリオのバランス強化につながる可能性は否定できない。特定地域に依存しない分散型戦略の展開こそが、今後のEV大手に求められる条件となるだろう。
Source:Finbold