トランプ前大統領が発表した「相互主義関税」により、Nvidiaは7.81%、TSMCは7.64%と、主要な半導体関連株が一斉に急落した。4月9日からは中国製品に対し最大54%、台湾製には32%の追加関税が適用される見通しで、サーバーなどのAI関連機器にも価格転嫁の波が及ぶ可能性がある。

米国は2024年に台湾から約190億ドル、中国から約340億ドルの「コンピュータ製品」を輸入しており、半導体の大半は最終製品として国内に入っている。半導体そのものは今のところ関税適用を免れているが、今後の対象拡大も示唆されている。

市場ではAI需要に支えられ一定の底堅さを保つとの見方もある一方で、製造拠点の米国回帰については業界関係者の慎重な姿勢が浮き彫りとなっており、政策効果の行方に注目が集まっている。

トランプ前政権が掲げた相互関税政策が半導体市場に与えた直撃

2025年4月2日に発表されたトランプ前大統領の「相互主義関税」政策は、AIサーバーなどに不可欠な半導体を供給する台湾、ベトナム、中国を狙い撃ちにした内容となった。中国製品には最大54%、台湾製には32%、ベトナム製には46%の新関税が段階的に導入される。これにより、サーバーやPCといった完成品に搭載される半導体製品の米国向け輸出コストは確実に上昇する見通しだ。実際、Nvidia、TSMC、Micron、Broadcomなど主要銘柄が7〜16%と大幅に値を下げ、市場は明確に反応した。

Bernsteinのアナリスト、Stacy Rasgonによれば、半導体そのものは今回の相互関税の対象外とされているが、10%の世界共通関税の対象には含まれる。さらに、「大半の半導体は完成品に内包されて米国に入る」と指摘されており、AI関連機器にとって打撃は避けられない。これにより、高度化が進むAI開発に必要なGPUやサーバー類の調達コストは跳ね上がり、開発投資に制約が生じる可能性もある。事実、米国は2024年に台湾から190億ドル、中国から340億ドルのコンピュータ製品を輸入しており、そのほとんどがAI関連製品と目されている。

今回の政策は、サプライチェーンの根幹に位置するアジアの製造拠点を標的にしており、表面上の保護主義ではなく、テクノロジー覇権の再構築を念頭に置いた動きとも読める。ただし、業界構造の複雑さから見て、政策の影響が短期で収束する可能性は極めて低い。

米国製造回帰の現実性とTSMCのアリゾナ投資に見る課題

トランプ氏は、「国内に工場を建てれば関税ゼロ」と発言し、製造業の本国回帰を強く求めた。しかし実際には、半導体業界における製造移転のハードルは極めて高い。TSMCのアリゾナ州での1000億ドル規模の投資は一見その象徴に見えるが、このプロジェクト自体はバイデン政権時代のCHIPS法による補助金を土台としており、トランプ氏の政策による成果とは言い難い。さらに、CHIPS法の今後の適用範囲や補助の継続性についても、不透明感が強まっている。

Truist証券のウィリアム・スタイン氏による調査では、半導体サプライチェーン上の主要10社はいずれも米国への製造移転に消極的であると報告している。その理由としては、関税政策が長期的に継続される見通しが薄く、設備投資の回収リスクが大きいためとされる。また、米国における技術人材の不足やエネルギーコストの高さ、労働集約型工程の非効率性も障壁となっている。実際、TSMCのアリゾナ工場も工程の複雑化とコスト高騰によって計画通り進んでいないとの報道もある。

製造業の回帰を促すには、単に関税を課すだけでは不十分であり、制度的支援、教育・訓練インフラの拡充、長期的な税制優遇といった多面的な取り組みが求められる。今回の政策は政治的メッセージとしては鮮烈であるが、産業基盤の再構築という実務の面では、現場の動きと乖離していることが明らかになっている。

Source:yahoo finance