トランプ前大統領による関税強化の発表を受け、S&P500は4%、ナスダック総合指数は5%下落し、NVIDIA株も6%下落した。年初来高値からの下落率は26%に達し、同社は今後さらに厳しい局面を迎える可能性がある。ブラックウェル需要は「驚異的」とされながらも、供給能力が利益率を圧迫しており、最新決算では粗利率が前年より3.2ポイント低下。
また、中国発AIモデルや経済不安によるIT株売りが重なり、株価見通しには慎重論が相次ぐ。HSBCはNVIDIAを「買い」から「ホールド」へ格下げし、目標株価を120ドルに引き下げた。半導体への関税は対象外とされる一方、報復関税やサプライチェーンの歪みが収益に影響を及ぼすリスクは拭えない。
関税強化が引き金となった市場動揺とNVIDIA株の急落

2024年の主役銘柄とも称されたNVIDIAの株価が、トランプ前大統領の新関税政策を受けて急落した。米国が一部の国に対し10%以上の輸入関税を課す方針を打ち出したことで、S&P500は4%、ナスダック総合指数は5%の下落を記録。NVIDIAは6%の下落幅となり、年初来高値からの下落率は実に26%に及ぶ。セクター全体の売りが進む中で、AI市場を牽引してきた同社も例外ではなかった。
市場では、今回の関税措置が想定外であったとする声も強く、Sanctuary Wealthのチーフ戦略家メアリー・アン・バーテルズは「これは最悪のシナリオだった」と述べている。S&P500が5,500を割り込めば、さらに5〜10%の調整も視野に入るとし、警戒感が一気に強まった格好だ。こうした外的圧力は、NVIDIAに限らず半導体業界全体に連鎖的な波及をもたらす可能性がある。
この混乱は、単なる株価の変動にとどまらず、企業戦略や設備投資、そしてグローバルな供給網の再編成にも影響を及ぼし得る。米国発の関税強化が世界のサプライチェーンに歪みを生じさせ、それが企業収益を直接的に圧迫する構造はすでに顕在化している。
高まる利益率圧力とBlackwell供給体制の限界
NVIDIAの第4四半期決算では、売上高が前年同期比で78%増となる393億ドルを記録しながらも、利益率の面では陰りが見え始めている。粗利益率は前年より3.2ポイント低い73.5%に落ち込み、これは新型データセンター製品「Blackwell」の製造にかかる複雑さとコスト増加が原因とされる。CEOのジェンスン・フアンが「Blackwellの需要は並外れている」と語る一方で、その供給が企業の収益構造にひずみを生んでいるのは否定できない。
背景には、台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー(TSMC)などアジアのファウンドリに依存した生産体制がある。特に、地政学的リスクや通商摩擦の拡大が、製造・供給コストを予期せぬ方向に押し上げるリスクを伴っている点が問題だ。半導体は今回の関税の直接対象外とされているが、他国による報復関税や貿易障壁が今後浮上すれば、サプライチェーン全体の機動性が大きく損なわれかねない。
こうした構造的課題は、NVIDIAのような高成長企業であっても無視できない制約条件となる。中長期的に見れば、収益性の改善には供給網の再設計や製品設計の見直しといった根本的改革が必要であり、それが投資家心理を冷やす要因として意識され始めている。
株価評価見直しの波と迫る成長鈍化リスク
HSBCは4月3日付でNVIDIAの株式評価を「買い」から「ホールド」へと引き下げ、目標株価も175ドルから120ドルへ大幅に見直した。理由として、GPU価格に関する価格決定力の低下が挙げられ、今後1〜2年の間は大きな利益上振れは見込みづらいとの分析を示している。とりわけ、サプライチェーンの歪みが拡大し続けており、同社の強気シナリオが現実化するのは困難だと指摘された。
AIやロボティクス、自動車領域への展開は中長期的な成長ドライバーと目されるものの、当面の間は業績にインパクトをもたらす段階には至っていない。現時点での主力製品の利益率悪化と需要の不均衡は、足元の事業運営に不透明感を生じさせている。また、市場はすでに高い成長を織り込んで株価を形成していたこともあり、再評価による下落圧力が高まるのは避けられない状況である。
短期的には調整が続く可能性があるが、根底にはNVIDIAの成長力に対する市場の期待がなお存在している。しかし、投資家はもはや「AI銘柄」という冠だけでは納得せず、持続的な収益性と供給体制の信頼性を求める段階へと移行している。浮かび上がるのは、高成長企業に求められる次なる成熟の形である。
Source:msn