AMDのRyzen 9800X3Dおよび9950X3Dが、発売からわずか数週間で致命的な故障を引き起こす事例が続出している。特にASRock製マザーボードとの組み合わせにおいて、標準設定にもかかわらずCPUとマザーボードが焼損し再起動不能となる深刻な障害が確認されており、Reddit上のメガスレッドには100件超の報告が集まった。

原因としては、AMDの3D V-Cache構造に起因する電気的な脆弱性と、AM5マザーボード側の電圧管理の不備が重なった可能性がある。中でも初期BIOSにおける電圧超過やEXPOプロファイルの不完全実装が疑われており、特定の条件下では1.3Vを超える過電圧がチップに損傷を与えるとされる。

AMDとASRockは共同でBIOSの修正と調査を進めているが、AsusやMSI製品でも同様のケースが報告されており、AM5プラットフォーム全体の設計・運用体制が問われている。高度な性能を実現した一方で、設計と制御の綻びが最先端製品に重い影を落としている。

3D V-Cacheの構造的制約と電圧耐性の限界

Ryzen 7 9800X3DおよびRyzen 9 9950X3Dは、3D V-Cache技術を搭載し、L3キャッシュを劇的に増強したことで注目を集めた。この構造は高負荷時のゲーミング性能に優位性をもたらす一方、電気的ストレスへの耐性を犠牲にしており、AMDの公式資料でも1.3Vを超える電圧は推奨されていない。

にもかかわらず、ASRock製マザーボードを中心に複数のAM5対応機種で、起動時あるいはEXPO設定使用時に想定外の過電圧が発生し、チップレットの接続断やマザーボード側の損傷に至る例が報告された。

この背景には、初期BIOSの設計上の緩さや、EXPOプロファイルによる電圧調整がマザーボードごとに最適化されていなかったことがあるとされる。

特にASRockのX670EおよびB650Eチップセット搭載モデルでは、デフォルト設定においてもVRM制御の不安定さや冷却機構の不備が指摘されており、ファームウェア更新が強く求められる状況にある。AMDとASRockが原因として公式に挙げたBIOSの不整合は氷山の一角に過ぎず、AM5プラットフォームの成熟にはさらなる検証が不可欠である。

Reddit発のユーザー主導調査が業界の警鐘に

Ryzen 9800X3Dの異常な故障事例が広まるきっかけとなったのは、Redditユーザー「natty_overlord」によるメガスレッドの開設であった。このスレッドには短期間で100件を超える実例が寄せられ、集計されたデータからは故障の大多数が9800X3Dに集中し、ASRock製マザーボードとの組み合わせで発生しているという相関が見出された。

クラウド型スプレッドシートによって構造化された報告群は、単なる偶発的な不具合ではなく、構造的な問題の存在を裏付ける証拠として扱われている。

注目すべきは、こうしたユーザーによる自発的な調査活動が、メーカーによる事後対応を促す契機となっている点である。AMDとASRockは当該調査の結果を受け、旧BIOSのEXPO互換性の問題を認め、修正版ファームウェアの配布を開始した。

一方で、Asus、MSI、Gigabyte製品にも同種の症例が報告されており、根本的な要因は個別メーカーに限定されず、AM5規格に内在する制度設計の緩さが問われている。製品の信頼性を左右するのは、スペックの高さ以上にプラットフォーム全体の検証体制であるという教訓が浮かび上がる。

高性能化と信頼性の綱引きが示す市場の変調

Ryzen 9800X3Dと9950X3Dの故障問題は、CPU業界における技術革新と信頼性確保の間にある構造的な緊張を象徴している。3D V-Cacheにより一時的なパフォーマンスの向上は実現されたが、それを支えるプラットフォーム側の設計が追いついていないことで、最終製品としての安定性が損なわれる結果となった。

特にEXPOのような利便性を追求した機能が、互換性テストの不足によって裏目に出た事例は、開発と検証の両立がいかに困難かを物語っている。

このような傾向は、パーツ選定やBIOS更新の判断をユーザー側に委ねる構造が一般化している現状と無関係ではない。AMDは公式としてファームウェアの最新化を呼びかけるに留まっており、最終的な責任はエンドユーザーに転嫁されがちである。

技術的完成度と市場投入スピードが重視されるあまり、設計の緻密さや全体調整の余地が削られるという現代の製品開発サイクルが、本件のようなリスクを内包していると見るべきであろう。信頼性を重視する市場層にとって、今回の一連の問題は単なる不具合ではなく、調達・構築・運用全体にわたる見直しを迫る契機となる。

Source:Digital Trends