ドナルド・トランプ前米大統領が再選時に韓国・中国製の半導体に最大60%の関税を課す可能性に言及し、世界最大のメモリチップメーカーであるサムスン電子が直面するリスクが鮮明になってきた。テキサス州の新工場建設など、米国内製造体制の強化を進めてはいるものの、即時的な関税導入には対応が間に合わない恐れがある。

関税が実施されれば、サムスンやSKハイニックスの価格競争力は低下し、AI開発やクラウド基盤を支える米国内企業にも影響が波及する可能性がある。韓国政府は外交ルートでの対応に動き出しており、米韓両政府の交渉の行方が半導体業界の今後を左右する局面となりつつある。

最大60%の関税が突きつける現実 韓国製メモリチップへの直接打撃

トランプ前大統領が発表を予定している半導体関税案は、サムスン電子とSKハイニックスの米国輸出に大きな障害をもたらす可能性がある。最大60%という極端な関税率が導入されれば、価格競争力の低下は避けられず、特にDRAMやNANDフラッシュといった主要製品が影響を受けることになる。アメリカ市場はサムスンにとって収益の柱の一つであり、その利幅の縮小は同社の事業全体に波及する。

この動きは、2025年4月中旬に正式発表が予測されており、アメリカ国内で進行中のCHIPS Actとの連動も指摘されている。米国製半導体の強化政策とあわせて、海外依存を減らす意図が明確化する中で、韓国企業は新たな供給網の構築を迫られている。だが、テキサス州テイラーに建設中のサムスン新工場や、SKハイニックスの現地施設強化が軌道に乗るには時間がかかり、短期的なリスク回避策としては不十分との見方もある。

このような圧力は、アメリカの政策だけでなく、世界的な半導体供給の再編という長期トレンドの一部とも言える。特定地域への依存を避ける流れの中で、韓国製品のプレゼンスに揺らぎが生じることは、今後のテクノロジー利用環境にも少なからぬ影響を及ぼす可能性がある。

メモリ価格の連鎖反応 AIやクラウドの裏側で起きる変化

サムスン電子やSKハイニックスのメモリチップは、PCやスマートフォンだけでなく、AI処理やクラウドデータセンターといった基幹インフラを支える部品でもある。特にGPUとの組み合わせで性能を左右するDRAMは、高性能AIや生成AIの運用に不可欠であり、供給価格の変動は直接的に最終製品の価格へと波及する。関税によって韓国製チップが高騰すれば、そのコストはクラウド利用料やAI関連サービスの価格へと転嫁されかねない。

スタートアップや中小規模のIT事業者にとって、このような価格上昇は大きな負担となる可能性がある。競争力の維持が難しくなれば、結果として利用者が受け取るサービスの質や価格にも変化が生じる。さらに、消費者向けのハードウェア分野においても、製品構成の一部としてメモリの価格は無視できない要素であり、端末価格の上昇を招くリスクもある。

このような状況が進めば、「安くて高性能」が当たり前だったデバイスやサービスの世界に変化が訪れる可能性がある。供給の多様化が求められる中、メモリチップという“見えない中核部品”の存在感が改めて浮き彫りになりつつある。

Source:Sammy Fans