Appleは、米中貿易戦争に端を発する関税圧力の高まりを受け、ブラジルでのiPhone生産体制を強化する方向で調整に入った。現在、中国からの輸入には54%もの関税が課され、加えてインド製品にも26%の新関税が4月5日より適用されている。

これに対し、ブラジルからアメリカへの関税は10%にとどまり、コスト圧縮の観点から魅力的な選択肢となっている。すでに同国サンパウロ州のFoxconn工場ではiPhone 16のベースモデル生産が始まっており、Proモデルは中国からの輸入を継続する見込みである。

Appleにとって年間2億台を超えるiPhoneの安定供給は最重要課題であり、アメリカ市場での価格高騰や株価下落を回避するためにも、ジュンジアイ工場の生産能力と品質維持が今後の鍵となる可能性がある。

米中関税の板挟みで露呈したAppleの供給網の脆弱性

Appleは現在、世界最大のサプライチェーンを誇りながらも、対中依存のリスクに直面している。iPhoneの過半数を中国から輸入しているため、トランプ政権時代に設定された54%という高関税は、Appleの原価構造に深刻な打撃を与えている。実際、iPhone価格は30〜40%の上昇が見込まれ、アメリカ国内の販売価格と収益性に直結する課題となっている。

さらに、代替生産拠点とされてきたインドも、4月5日からiPhoneに対して26%の関税を新たに課しており、Appleにとって一時的な避難先に過ぎなかったことが明らかになった。これにより、Appleは再びコストと供給網の再設計を迫られており、ブラジルが次なる候補として急浮上した。

現地のFoxconn工場はすでにiPhone 16ベースモデルの製造を受託しており、一定の生産能力とインフラは整っている。だが、このような対応策はAppleのサプライチェーンの柔軟性に疑問を投げかける。地政学的リスクや貿易摩擦が加速する中で、製造の集中は企業競争力の弱点となりかねない。

分散化の重要性が問われる中、ブラジルという地理的・経済的に中立性を保てる拠点が、戦略の要として試されている。

ブラジル工場の拡張に潜む実務的リスクと戦略的意義

Appleが依存する中国・インドに代わる輸出拠点としてブラジルが脚光を浴びているが、そこには複雑な実務課題も横たわっている。ジュンジアイに位置するFoxconnの既存工場は、iPhone 16の標準モデルを生産するなど既に稼働しているが、高度な精度を要するProモデルは引き続き中国からの輸入が継続される見込みである。

これは同工場の技術力や生産体制が未だ限定的であることを示唆している。また、ブラジル国内の労働制度、物流インフラ、政情不安なども無視できない要素である。特に、高付加価値モデルの製造には、工程管理や品質維持において高度な技術支援が不可欠であり、現地化のスピードがAppleのグローバル戦略と一致するかは依然不透明である。

一方で、ブラジルからアメリカへの関税は10%と抑えられており、経済合理性の観点からは魅力的な選択肢であることも事実だ。Appleにとってこの判断は単なるコスト回避ではない。供給の多極化、地政学的リスク分散、さらにはグローバルな価格戦略の柔軟性確保といった意味を持ち得る。

工場の増強に踏み切るとしても、単なる応急処置ではなく、長期的な再編の一環としての位置づけが求められる。Appleの次の一手は、単なる製造地変更にとどまらない広範な戦略転換を問うものとなる。

Source:Neowin