NVIDIAは、物理演算エンジン「PhysX」および流体シミュレーションライブラリ「Flow」のGPU関連ソースコードをBSD-3ライセンスのもとで完全公開した。これにより、CUDAベースの500以上のGPUカーネルを含む最新のリアルタイムシミュレーション技術が誰でも自由に解析・活用できる状態となった。

今回の公開には、GPUコンピュートシェーダーを含むFlow SDKの実装も含まれており、学術研究からMOD制作、技術検証まで幅広い応用が期待されている。一方、RTX 50シリーズでのPhysXサポート打ち切りにより、旧作ゲームに対応するためRTX 3050を併用するユーザーも出てきている。

CUDAベースのPhysXカーネル完全公開がもたらすリアルタイム演算の可能性

NVIDIAがPhysXのGPUシミュレーションカーネルを含むすべてのソースコードをGitHub上に公開したことで、リアルタイム物理演算に関わる技術開発の間口が一気に広がった。これには剛体、変形オブジェクト、流体といった物理現象を制御する500を超えるCUDAカーネルが含まれており、従来はブラックボックスだったGPU側の挙動を詳細に解析できる環境が整ったことになる。

BSD-3ライセンスの下で提供されたことで、商用・非商用問わずコードの改変や再配布が自由となり、学術研究やインディー系の開発者にとっても扱いやすい素材となった点は大きい。特にCUDA環境に親しんでいる開発者にとっては、既存のパイプラインに直接組み込んでパフォーマンス検証や機能拡張を行う余地が増えた。

一方、これまで物理演算ライブラリをブラックボックス的に使っていた多くの開発者にとって、今回の公開は学習教材としても価値が高い。各カーネルがどのようにリアルタイム挙動を支えているかを知ることで、独自エンジンへの応用や最適化のヒントを得ることができる。ただし、この公開によって一般ユーザーの体験が即座に変わるわけではない点は冷静に捉える必要がある。

Flow SDKの完全開示とGPUコンピュートシェーダーの可能性

リアルタイム流体シミュレーションを可能にするNVIDIA Flow SDKのGPUコンピュートシェーダーが今回同時に公開された点も見逃せない。Flowはスパースグリッドベースの計算手法を用いることで、高精度かつパフォーマンス効率に優れたシミュレーションを実現しており、その内部構造を初めて確認できる機会が提供された。

このライブラリはゲームだけでなく、インタラクティブアートやデータビジュアライゼーション、シミュレーション教育の分野でも活用されてきた背景がある。ソースコードの完全公開によって、既存プロジェクトの最適化だけでなく、より軽量化された独自実装の開発も可能となり得る。これまで限られた用途だったリアルタイム流体表現が、より広範な分野に拡張される下地が整ったと言える。

ただし、CUDA環境とは異なり、GPUコンピュートシェーダーの知識はやや専門性が高く、活用にはある程度の技術的ハードルが伴う。また、商用ゲームエンジンとの統合には追加の調整が求められる可能性もあり、実用レベルでの応用には段階的なアプローチが必要となるだろう。とはいえ、その源泉を誰でも検証できるという点において、今回の公開は今後のGPU活用の新たな扉を開いたといえる。

RTX 50シリーズとPhysX非対応の波紋 MODが果たす役割とは

GeForce RTX 50シリーズにおいてNVIDIAがPhysXのサポートを打ち切ったことは、最新GPUで旧作ゲームを遊ぶ一部のユーザーにとって実質的な後退を意味した。『バットマン:アーカム・アサイラム』や『ミラーズエッジ』といったPhysX依存のタイトルは、最新GPU単体では本来の物理演出を再現できず、RTX 3050などを併用するという異例の手段に頼る例も出てきた。

この対応はハードウェア的には可能だが、実際にはドライバ調整や設定変更を伴い、万人向けの解決策とは言い難い。そうした中で、今回公開されたGPUシミュレーションカーネルを基に、MOD制作者がPhysX機能の補完や再実装に挑む可能性が出てきた点は、技術的にも文化的にも注目に値する。

とはいえ、MODによる解決はあくまで非公式な手段であり、互換性や安定性に関する保証がないことは前提となる。それでも、既存の制限に対して創意工夫で対応しようとするコミュニティの動きが、結果的に過去タイトルの体験を再構築し、未来の互換性問題に光を当てる一助となるかもしれない。今回のソース公開が、そうした動きの火種となることは確かである。

Source:Wccftech