ドナルド・トランプ前大統領による新たな関税方針が、AI業界のGPU調達を巡る不透明感を生み、テック業界全体に動揺が広がっている。エヌビディアは7.59%、TSMCは7.22%の株価下落を記録し、GPUを中核とするAI開発企業に深刻な影響が懸念されている。

一部関係者は関税免除を楽観視するが、完成製品への32%関税適用の可能性やホワイトハウスの対応の遅れが不安を加速させる要因となっている。特にAI向けGPUの多くが台湾から完成品として輸入されている点がリスクを高めている。

GPU関税の不透明さがテック業界に与える現実的な影響

トランプ前大統領が推し進める大規模関税政策により、GPUを含む完成品が関税対象となるかどうかが明確にされておらず、業界全体が混乱している。The Vergeによれば、GPUの核となるチップには例外措置があるが、それを組み込んだ電子機器は32%の関税対象となる可能性があるとされ、これは4月9日にも発効される見通しだ。Nvidiaは7.59%、TSMCは7.22%の株価下落を記録しており、市場はこの不確実性に敏感に反応している。

現在、多くのAIラボでは「関税免除が適用されるだろう」という楽観的な見方が広がっているが、ワシントンの政界では状況の把握すら難しいとの声も出ている。The Vergeが確認したところ、商務省やUSTRは関税の具体的な対象についての回答を控えており、ホワイトハウスもコメントを出していない。

この状況下で懸念されるのは、NvidiaのGPUを基盤としたAIインフラを支えるAmazon、Google、Microsoftといった企業が、関税によりコスト増を迫られることだ。特にGPUは単体ではなく、サーバーやワークステーションとして台湾から輸入されるケースが多く、今回の関税がそのまま反映される可能性が高い。

国内製造シフトの限界と価格高騰の懸念

Nvidiaは対策として、TSMCのアリゾナ工場を利用し米国内製造へと軸足を移しつつある。CEOジェンスン・フアン氏は、製造拠点の分散に言及しつつも、短期的には関税の影響が小さいとし、長期的には国内製造が鍵になると述べた。だが、GPUを利用する企業にとっては、今後の価格変動は避けられない現実として突きつけられている。

AIラボやクラウド事業者のように大量の計算力を必要とする企業だけでなく、一般のPCビルダーやクリエイターにとっても、完成製品への関税が課されれば、GPU価格は大幅に上昇する恐れがある。タフツ大学のクリス・ミラー教授は、国内サプライチェーンの整備は可能だが、短期的には天文学的コストが発生すると語る。

さらに、中国が発表したレアアース輸出制限により、電子機器の原材料供給も不安定さを増している。米国はレアアースの90%を中国に依存しており、素材面でも価格上昇は避けられない構図だ。これらの複合的な要因が、一般消費者のデバイス購入コストにも確実に影響を及ぼす可能性がある。

テック企業の政治的距離感と関税の恣意性

今回の関税方針をめぐって注目されているのは、GPUへの課税が政治的な恣意によって左右される可能性だ。The Vergeによれば、トランプ前政権は過去にAppleを特別扱いした前例があり、今回も「味方」とみなす企業には関税免除が下りるとの観測が出ている。OpenAIのサム・アルトマンがトランプと共に巨大データセンター計画「Stargate」を発表したことも、こうした思惑に拍車をかけている。

実際にAmazon創業者のジェフ・ベゾスが新政権への忠誠を表明した一方で、彼が所有するワシントン・ポストが政権批判を展開すれば、Amazonが関税免除を失うリスクもあるとされる。このように、政策が論理や産業構造ではなく、個別の関係性に依存する場合、業界の安定性は根底から揺らぐことになる。

政権の意向次第で課税が左右される構造は、特定の企業に恩恵を与える一方で、他の企業を理不尽なコストにさらすことになる。ロビイストが「大丈夫そうだが、確信は持てない」と語るように、GPU供給における信頼性は今や、技術力よりも政治的立ち位置に依存しつつある。ユーザーにとっては、そのしわ寄せが価格や供給の不安定化という形で現れることになりかねない。

Source:The Verge