ウォーレン・バフェットが率いるバークシャー・ハサウェイは、インターネット業界において法的独占権を持つVeriSignの株式を2023年末から2024年初頭にかけて約9400万ドル分追加取得し、保有比率を14%にまで引き上げた。

この銘柄に対し、カバーするアナリストの60%が「買い」ではない評価を示しているにもかかわらず、バフェットは同社の長期的成長力と経営陣への信頼から再投資に踏み切った。VeriSignは.comと.netのドメイン登録における独占的な契約と高い利益率を持ち、過去10年以上にわたりバフェットの保有銘柄として名を連ねてきた。

現在の株価は、バフェットの取得価格を大きく上回る水準にあり、同銘柄はバークシャーの中でも群を抜くパフォーマンスを見せている。ドメイン登録数の減少という逆風の中でも、経営陣は回復への明確な方針を持ち、アナリスト評価と市場実態の乖離が一層注目を集めている。

VeriSignが握るインターネットの独占構造と収益力

VeriSignは、.comおよび.netといったトップレベルドメインの登録管理権をICANNとの契約により独占的に保有している。この契約構造は、年間の値上げ幅を制限しつつも、安定的かつ予測可能な価格改定を可能にし、収益の成長性を担保している。同社はDNSインフラの中枢を担うという社会的使命と、極めて低い運用コストを併せ持ち、その結果として2024年には87.7%の粗利率、67.9%の営業利益率という異常値に近い高水準を記録した。

この利益構造は、一般的なIT企業や通信インフラ企業の水準を大きく上回るものであり、いかに競争のない市場が高収益性をもたらすかを端的に示している。さらに注目すべきは、同社のキャッシュフローの安定性である。ドメイン登録は通常1年または複数年単位で自動更新されるため、収益の予見性が高く、経営判断の自由度を高める要因となっている。結果として、VeriSignは典型的な景気循環の影響を受けにくい企業体質を築いている。

このような特異なビジネスモデルが形成される背景には、技術的優位性よりも制度的優遇、すなわち法的独占構造が存在している点を見逃してはならない。市場競争を前提としない収益獲得の仕組みは、資本市場において評価が分かれる要素でありながら、一定層の投資家にとっては魅力的な資産防衛手段と見なされている。

ウォール街の評価と乖離するバフェットの行動

2023年12月から2024年1月にかけて、ウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハサウェイはVeriSign株を191〜206ドルで買い増し、保有比率を14%にまで高めた。注目すべきは、この買い増しが行われた時点で、VeriSignに対してカバーしているアナリストの60%が「保留」または「アンダーウェイト」の評価を示していたという事実である。5人というサンプル数の少なさを考慮する必要はあるが、市場評価との明確な乖離は無視できない。

現在の株価は255ドル前後で推移し、バフェットの取得価格を大きく上回っている。予想PERは29.6倍と決して割安水準とは言い難いが、それでも市場はこの銘柄に対して一定の成長期待を織り込んでいる。ここで重要なのは、バフェットがこの銘柄を2012年から保有しており、経営陣の手腕に強い信頼を寄せている点である。短期的な評価軸にとらわれず、事業の本質に基づく投資判断を下していることは明らかだ。

この意思決定は、伝統的なファンダメンタル分析だけでは説明がつかない要素を含んでいる。バフェットが注目するのは、価格決定力、収益の持続性、経営の一貫性といった“見えにくい強さ”である。市場が成長鈍化や登録数減少という表層的な懸念にとらわれる中、彼は本質的な優位性を維持する企業に対して長期の信任を与えている。

ドメイン市場の変調とVeriSignの対応力

VeriSignの抱える最大の課題は、2023年以降続いたドメイン登録数の減少である。2024年末時点の登録件数は1億6900万件であり、前年同期の1億7480万件から約580万件減少している。このトレンドは、インターネット利用の構造変化や、過去に多くのドメインを取得していた中国市場の縮小によって加速した側面がある。特に中国発のドメインは、現在では全体の5%以下と依存度が大幅に低下している。

一方で、2025年の年初には新規登録が回復基調に転じ、満了件数も減少している。第4四半期の決算においては、登録業者との連携強化やマーケティング施策の成果が報告されており、これが好循環を生み出しているとされる。さらに、顧客獲得活動への積極的な投資が功を奏し、登録業者側の意欲が高まっている点もポジティブな材料である。

しかし、構造的な課題が完全に払拭されたわけではない。新興企業のSNSやアプリへの直接進出が増える中、ドメインの必要性そのものが揺らいでいる。VeriSignが今後も収益を維持するには、単なる登録数の回復ではなく、ブランド価値やサービスの付加価値向上といった中長期的視点での改革が求められる段階に来ている。

Source:The Motley Fool