Appleは、トランプ政権が発表した輸入品への過酷な関税措置に対抗するため、複数の戦略を講じつつある。中国に54%、インドに26%、ベトナムに46%といった異例の関税率に直面しつつも、iPhone X以降据え置いてきた999ドルの価格維持を模索中だ。

製造コスト削減のためにサプライヤーに価格引き下げを求めるほか、短期的な価格調整や利益率の一部吸収、さらにサプライチェーンの再編によってコスト圧力の分散を図る構えである。さらに関税発効前に製品を米国内に大量搬入することで、価格変更を最短でも9月の新製品発表までは回避可能との見通しもあるが、抜本的な回避策とはなり得ず、価格上昇が不可避となるリスクは依然として残されている。

新関税発効直前に取られた在庫戦略と価格調整のタイミング

Appleは、2025年4月9日に発効予定の米国新関税を見据え、数か月前から製品を大量に米国内に輸送していたとされる。この在庫の積み上げにより、Appleは関税対象外となる既存在庫を活用して、少なくとも短期的には価格の引き上げを回避できる状態を整えた。

Bloombergの報道によれば、この措置により9月に予定されている新型iPhoneの発表までは、従来の価格帯を維持できる余地があると見られている。ただし、この手法には限界がある。関税の発効によって新たに輸入される製品はコスト上昇が避けられず、いずれは販売価格への反映が避けられない見通しである。

さらに、発表時期と価格調整が重なれば、新製品の性能や技術革新よりも「価格上昇」が注目されるリスクも存在する。これはAppleのブランド戦略において、訴求力を弱めかねない要因となる可能性がある。在庫による時間稼ぎは一定の効果を持つ一方で、恒常的な解決策とはなり得ない。

Appleにとって重要なのは、この猶予期間中に次の打ち手をいかに具体化するかという点に移りつつある。

製造コスト削減と利益吸収のバランスをどう取るか

トランプ政権の新関税により、中国製品には最大54%、ベトナム製品には46%、インド製品には26%の関税が課される。こうした高率の関税に対抗するため、Appleは複数の手段を模索している。その一つが部品供給元や製造委託先への価格引き下げ要請である。加えて、Apple自身が平均で約45%とされる利益率の一部を吸収し、消費者価格への影響を抑える方策も検討されている。

これは、同社が過去10年にわたり製品価格の大幅な変動を避けてきた姿勢と整合する。一貫した価格政策はAppleブランドの一貫性を支える基盤でもあり、その維持は極めて重視されていると考えられる。一方で、供給側への価格圧力は中長期的に品質や納期、さらにはパートナーとの関係性にも影響を及ぼすおそれがある。

コストと価格、利益と供給安定のバランスをどう取るかという課題は、Appleにとってこれまで以上に重要な経営判断の局面を迎えている。今回の対応次第では、Appleが掲げてきた「高品質で一貫した価格設定」という哲学に変化が生じる可能性も否定できない。

サプライチェーン再構築の現実と米国製造の限界

Appleは関税リスクに備え、数年前からサプライチェーンの地域分散を進めてきた。とりわけインドやベトナムへの生産拠点の移行はその一環である。ただし、今回の関税ではそれらの国々も例外ではなく、高率の課税対象に含まれている点が注目される。そのため、単なる生産拠点の移転では抜本的な解決に至らない構造的問題が浮き彫りになった。

加えて、米国内製造については、今回のBloomberg報道でも具体的な計画は挙がっていない。労働コストやインフラの問題から、米国内での本格製造は採算に合わず、Appleにとって現実的な選択肢とはなりにくい。これが、サプライチェーンの多様化といえども地政学リスクの回避策としては不完全であることを示している。

今後Appleが注力すべきは、貿易協定による関税回避や地域別の組立と輸出経路の最適化といった、より精緻なサプライチェーン設計であろう。グローバル市場において「価格と品質の両立」を追求するためには、戦略の再構築が不可避である。

Source:9to5Mac